・・・と言いながら、こんどは間違って便所の方へ行ってしまうという放心振りがめずらしくなく、飄々とした脱俗のその風格から、どうしてあの「寄せの花田」の鋭い攻めが出るのかと思われるくらいである。相手の坂田もそれに輪をかけた脱俗振りで、対局中むつかしい・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・学問も結構ですが、やたらに脱俗を衒うのは卑怯です。もっと、むきになって、この俗世間を愛惜し、愁殺し、一生そこに没頭してみて下さい。神は、そのような人間の姿を一ばん愛しています。ただいま召使いの者たちに、舟の仕度をさせて居ります。あれに乗って・・・ 太宰治 「竹青」
・・・にでも、あんなやつらがいるのだから、気にするなよ、とひとから言われたこともあるが、しかし、私はその不潔な馬鹿どもの言うことを笑って聞き容れるほどの大腹人でもないし、また、批評をみじんも気にしないという脱俗人ではなし、また、自分の作品がどんな・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・真実に脱俗して栄華の外に逍遥し、天下の高処におりて天下の俗を睥睨するが如き人物は、学者中、百に十を見ず、千万中に一、二を得るも難きことならん。いわんや日本国中栄誉の得べきものなければ、すなわち止まんといえども、等しく国民の得べきものにして、・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
出典:青空文庫