・・・二つの作品には自然発生的な萌芽として、新しい日本の人民生活の文学の端緒と、現代文学が私小説から脱却してゆく可能の方向及びこれからの日本文学が実質的に世界文学の領野に参加し、そこでになってゆくべき現実の性格などについて、示唆をふくんでいる。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・からの脱却、伝統的な主情性の克服の可能も、文学が人民のリアリスティックな発展の可能性とそのための多種多様な行為とともにあってはじめて見出されるのである、と。この場合、国際的なプロレタリア文学運動が、二十世紀の世界文学の一発展としてもたらした・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・クリスチアーナという女の愛に失望したマリオ・ルドヴィッチ中尉が従来の生活環境と感情とから脱却するために、アフリカのリビヤへ赴きそこの守備隊に加って土民征服に出かける。この経験から生きる目的を一変させた中尉ルドヴィッチは後を慕って来たクリスチ・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・「自然主義的な文章をいかにして脱却するかというところに根本的な出発点をおかれ」ていると説かれているのである。 ブルジョア文化史のある一定段階の現象として過去三、四年来の日本の作家の間に著しく現れた文章道への関心・熱中にともなわれ、心理学・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・事情が変化して、人間らしい自由を建設しようとする本性が伸張されなければならないいまになっても、しいられてできた内部抵抗の癖は、そこまで心情を脱却させないで、これを、民主主義への懐疑、政治的・芸術的良心への疑惑、人間性発展の確信への狐疑として・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・そしてこれまでただ美しいとばかり言われて、人形同様に思われていたお佐代さんは、繭を破って出た蛾のように、その控え目な、内気な態度を脱却して、多勢の若い書生たちの出入りする家で、天晴れ地歩を占めた夫人になりおおせた。 十月に学問所の明教堂・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・戦争については、吉日を選び、方角を考えて時日を移すというような、迷信からの脱却を重大な心掛けとして説いている。その他正直者の重用を説き、理非を絶対に曲げてはならないこと、断乎たる処分も結局は慈悲の殺生であることなどを力説しているのも、目につ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・著者が一人旅の心を説くのも、我執に徹することによって我から脱却し、自然に遊ぶ境地に至らんがためであった。ただ我執の立場にとどまる旅行記からは、我々は何の感銘も受けることができない。脱我の立場において異境の風物が語られるとき、我々はしばしば驚・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
・・・ しかし『新生』を書いたことによって藤村があの習癖を完全に脱却したというのではない。『新生』は藤村があの習癖を自覚したということの証拠なのであって、脱却の運動はそこに始まったばかりなのである。少年のころから深く植えつけられた習癖が、・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
・・・の意義が量から質に、物質から意味価値に移されるとき、たちまちに脱却せられる。で君は、一般の人にわかってもらえない淋しさが「美への奉仕」を理解することによって追い払われることを説く。「美術家は個人に奉仕するよりも、美に奉仕すればいいのだ。一般・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫