・・・ アンネットは、自分の心がどのような生活を欲しているかをはっきり自覚し、その為に境遇の膳立てに逆ってでも、自己の生活方向、方法、内容を自力で決定しようとする女性なのです。時代的にいえば、アルノー夫人の後進者です。そして彼女の腹違いの妹の・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・現実がその妄想を打破った幻滅の心を、自力で整理するだけの自主的な「考える力」を必死に否定してあらゆる矛盾した外部の状況に受身に、無判断に盲従することを「民心一致」と強調した責任は、どこにあっただろうか。馬一匹よりもやすいものと命ぐるみ片ぱし・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・まして、大局ではマイナスの作用をしつつ、目前ともかくプラスである協力者をもたず、或は良人と自身との画境をはっきり弁えて自力の成熟をしようと心がけている若い少数の婦人画家たちは、現在の常識ではどっちを向いても損であり苦しいということになる。・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・その人は、自力、自分の実力ということをふたたびうれしく認めるであろう。しかし、真面目な婦人であるならば、その満足の期間は短くて、新しい社会的な立場はとりもなおさず、より厳粛な社会的覚醒への扉であったことを知ると思う。 民法が改正されよう・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・私は姉だから厳粛に自力で困難を征服する。 そうして切どおしをのぼり切ると、道灌山つづきの高台の突端に出た。子供の時分の田端の駅は、思えば面白い地形に在ったものだ。 汽車は、平らに低いところを走っている。だから駅も低いところに在らねば・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・しかもその社会の本質は、自力でその矛盾を解決する力を失っているから恋愛、結婚における貞潔の社会的根拠というものも保証しかねているのである。男と女とのまじりけない人間評価により立つ愛に対して、分担された責任である互の貞操は、先ず恋愛において、・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・ たとい若し、彼女の最初の婚約が全然絶望的なものと成った当時、既に、自力によって一定の収入を得る総ての女性間に、経済的相互扶助機関が確立しているとしたら、どうなったでしょう。 収入の幾割かを皆が積立てて、その適当な運用、利殖によって・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・けれども、こまかく考えてみれば、時間と金とが男よりも多いといわれているアメリカの読書する婦人たちのうちのはたして何割が、社会人として自力でそれらの本を買い、本をよむことでその自主的な生活力を鍛錬し慰安を見出しつつ生きているのだろうか。アメリ・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
・・・却って、このことがきっかけとなって、友松円諦のような者や、農村自力更正修養団の思想やがはいりこむことも予想される。 この間、プロレタリア作家の徳永直と、これはプロレタリア短歌を専門とする渡辺順三とが、東北飢饉地方を見学に行った。私は断片・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・こういうものは藤村が自身の教養と生活の道とを、所謂心も軽く身も軽き学生生活でのみ得ず、自力で自身の肉体でものにして来ているところからも生じているのではないでしょうかしら。 村山の意見に対して蔵原の批評をひき、貴方が半蔵によって明治変革は・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫