・・・今まで文芸などに遊んでおった身で、これが果してできるかと自問した。自分の心は無造作にできると明答した。文芸を三、四年間放擲してしまうのは、いささかの狐疑も要せぬ。 肉体を安んじて精神をくるしめるのがよいか。肉体をくるしめて精神を安んずる・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・今さらその理由を事々しく自問し自答するにも当たるまい、こんな事は初めからわかっているはずである、『マイケル』を読んでリウクの命運のために三行の涙をそそいだ自分はいつしかまたリウクを誘うた浮世の力に誘われたのだ。 そして今も今、いと誇り顔・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・ なんで身投げなどしたんじゃろかなと、女は自問し、この世がいやになったんでしょうかなと自答した。そして、この世がいやになるというようなことは、どんなに名のある人だったかは知らぬが、あさはかな人間のすることだというような顔をした。 私・・・ 黒島伝治 「短命長命」
・・・其生育如何は自問して自答に難からざる可し。在昔大名高家の子供に心身暗弱の者多かりしも、貴婦人が子を産むを知て子を養育する法を忘れたるが故なり。篤と勘考す可き所のものなり。故に我輩は婦人の外出を妨げて之を止むるに非ず、寧ろ之を勧めて其活溌なら・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 戦争のある段階まで、いわゆる作家的成長欲やその本質を自問しないで、ただ経験の蓄積を願う古い自然主義風な現実主義から少なからぬ作家たちが国内、国外にあれこれ動員された。ところが、戦争が進むにつれ、軍そのものが、偽りで固めた人民むけ報道の・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
出典:青空文庫