・・・ この例でもわかるように、闘争的プロレタリアートは諷刺にしろ、自嘲は欲しない。建設的諷刺が欲しいのである。 ハッハッハアと笑って、ようし、やるぞ! という元気のいいのがほしいのである。 諷刺文学、朗らかで、見通しをもったプロレタ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・その幽鬼たちが彼という存在との接触においてかつての現実の事情の中に完成されなかったいきさつを妄執として彷徨し、私という一人物はそれらのまぼろしの幽鬼に追いまくられて遂には鴎と化しつつ、自嘲に身をよじる。それを、作者は小説のなかでもくりかえし・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・この頃の社会の事情は女としての困難解決の方向を知っているひとでも目前に方法がつかないような特殊の苦痛がありますが、どうかその苦痛にまけたことを一つの自嘲的なポーズとせず日々の努力をのぞみます。〔一九三七年二月〕・・・ 宮本百合子 「現代女性に就いて」
・・・十分そのことについて、自省もあり、時に自嘲的にさえなっているとしても、全体としての動きはそうなって行く悲しさがある。それから又突抜けて出る新鮮な力は、このゴミっぽい過程の間で磨滅しないでしょうか。私は磨滅させたくないと思います。 本が出・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・或る場合には自分の本性と反撥するものをも感じつつ尚悲しき利害から毅然たる態度も示しかねる自分に自嘲を感じることもあろう。そのような生きる感情の状態から、新たな文学が生れ得ると考えれば、あまり作家と作品との生活面に於ける統一の重大性を無視した・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・した自身の努力、人間的善意の価値に自信を失わせる結果となり、従って、プロレタリア文学運動の高揚と退潮とに至る多岐な数年間の経験から、将来の作家的成長のために学びとるべき貴重な多くのものを、却って一種の自嘲、軽蔑をもってやりすごした憾みがあっ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・能性とともに世界的な動かすことのできない事実であり、必然の勢であるにもかかわらず、昨今の文化政策は非常に巧妙な手段でインテリゲンチアをふくむ小ブルジョア層にますます小ブルジョアの無気力を助長するような自嘲、自己嫌悪を吹きこみ、労働者の側から・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・女達の崇拝する心持に対する自嘲、不幸な、苦しみ多き人間として生活するその内面を描いて見たい。 ◎標準時計 絶対に狂わず正確なもの と云う それを或日本の海軍将官が英国で買った。六年の間に一分進んだばかりなので、こ・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・成り上りに対しては、真の貴族であったほこりも甦り、しかしそのような意識を自嘲せずにいられなくする心理もあるだろう。 漱石は、彼の時代の言葉として、権力・金力をもつ境遇のものが、自分で人間らしくそれらを支配する能力として個性の確立される必・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・ 絶えず口元に自嘲的な笑を漂わせながら、唇を噛んでいるお石は、すっかり自暴自棄になってしまった。 まだ何か望みがあり、盛り返せるかもしれないという未練が残っていたときには、懸命に稼ぐ気にもなり、怨む気もしたけれども、こうまで落ちきっ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫