・・・そして、愛という字が近代の偽善と自己欺瞞のシムボルのようになったのはいつの時代からでしょうか。三文文士がこの字で幼稚な読者をごまかし、説教壇からこの字を叫んで戦争を煽動し、最も軽薄な愛人たちが、彼等のさまざまなモメントに、愛を囁いて、一人一・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・木村の関係している雑誌に出ている作品には、どれにも情調がない。木村自己のものにも情調がないようである。」 約めて言えばこれだけである。そして反対に情調のある文芸というものが例で示してあったが、それが一々木村の感服しているものでなかった。・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・それは彼が自己の生活を完全に感覚化し得たるが故ではない。それは彼が常にその完全な生活の感覚化から、他の何者よりもより高き生活を憧憬してやまなかった心境から現れたものに他ならない。感覚触発の対象 未来派、立体派、表現派、ダダイ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・これが真の自己を生かせる道ですから。 しかし私は自己を育てようとする努力に際して、この努力そのものがイゴイズムと同じく愛を傷うことのあるのを知りました。私は仕事に力を集中する時愛する者たちを顧みない事があります。私を愛してくれる者はもち・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫