・・・の壁画よりも遥かに六十何歳かのレムブラントの自画像を愛している。 わたしの愛する作品 わたしの愛する作品は、――文芸上の作品は畢竟作家の人間を感ずることの出来る作品である。人間を――頭脳と心臓と官能とを一人前に具えた人間・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・人物といえば、お母さんの顔をかいたり、また自画像をかいたりするくらいで、あとは、たいてい風景や、静物ばかりをかいていたのである。上野に一軒、モデルを周旋してくれる家があるようであるが、杉野君はいつも、その家の前まで行ってはむなしく引返して来・・・ 太宰治 「リイズ」
・・・それでとうとう自画像でも始めねばならないようになって来た。いったい自分はどういうものか、従来肖像画というものにはあまり興味を感じないし、ことに人の自画像などには一種の原因不明な反感のようなものさえもっているのであるが、それにもかかわらずつい・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・五十七歳の時のケーテの自画像には、しずかな老婦人の顔立のうちに、刻苦堅忍の表情と憐憫の表情と、何かを待ちかねているような思いが湛えられている。 晩年のケーテの作品のあるものには、シムボリックな手法がよみがえっている。が、そこには初期の作・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
出典:青空文庫