・・・国の興ると亡ぶるとはこのときに定まるのであります。どんな国にもときには暗黒が臨みます。そのとき、これに打ち勝つことのできる民が、その民が永久に栄ゆるのであります。あたかも疾病の襲うところとなりて人の健康がわかると同然であります。平常のときに・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 詩はついに、社会革命の興る以前に先駆となって、民衆の霊魂を表白している。例えばこれが労働者の唄う歌にしろ、或は革命の歌にしろ、文字となってまず先きに現われるということは事実である。そして、芸術の形をつくるのである。それは最も感激的に、・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・その興るに当っては人の之に意を注ぐものなく、その漸く盛となるや耳に熟するのあまり、遂にその消去る時を知らしめない。服飾流行の変遷も亦門巷行賈の声にひとしい。 明治四十一年頃ロシヤのパンパンが耳新しく聞かれた時分、豆腐屋はまだ喇叭を吹かず・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・古語に衣食足りて礼譲興ると言う。婦人に資力なきは喩えば衣食足らざるものゝ如し。父母たる者が之に財産を分与するは、我愛女に衣食を豊にして夫婦の礼を知らしむるの道なりと知る可し。但し婦人に財産を与えても自から之を処理するの法を知らざれば、幾千万・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫