・・・「皇国の興廃この一挙にあり」云々の信号を掲げたということはおそらくはいかなる戦争文学よりもいっそう詩的な出来事だったであろう。しかし僕は十年ののち、海軍機関学校の理髪師に頭を刈ってもらいながら、彼もまた日露の戦役に「朝日」の水兵だった関・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・ 遊里の存亡と公娼の興廃の如きはこれを論ずるに及ばない。ギリシャ古典の芸術を尊むがために、誰か今日、時代の復古を夢見るものがあろう。甲戌十二月記 永井荷風 「里の今昔」
・・・要するに取捨興廃の権威共に自己の手中にはない事になる。したがって自分が最上と思う製作を世間に勧めて世間はいっこう顧みなかったり自分は心持が好くないので休みたくても世間は平日のごとく要求を恣にしたりすべて己を曲げて人に従わなくては商売にはなら・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・一、文学はその興廃を国政とともにすべきものにあらず。百年以来、仏蘭西にて騒乱しきりに起り、政治しばしば革るといえども、その文運はいぜんたるのみならず、騒乱の際にも、日に増し月に進み、文明を世界に耀かしたるは、ひっきょう、その文学の独立せ・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
出典:青空文庫