・・・「……我常住於此 以諸神通力 令顛倒衆生 雖近而不見 衆見我滅度 広供養舎利 咸皆懐恋慕 而生渇仰心……」 白髪に尊き燈火の星、観音、そこにおはします。……駈寄って、はっと肩を抱いた。「お祖母さん、どうして今頃御経を誦むの。」・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・骨が舎利に成ろうが、これは何でも離れねばならぬ――が、出来るかしら? 成程手も挙げられる、吸筒も開けられる、水も飲めることは飲めもするが、この重い動かぬ体を動かすことは? いや出来ようが出来まいが、何でも角でも動かねばならぬ、仮令少しずつで・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ もう一つのを開いて見ると、それはからだの下半が干すばって舎利になっていた。蚕にあるような病菌がやはりこの虫の世界にも入り込んで自然の制裁を行なっているのかと想像された。しかし簔虫の恐ろしい敵はまだほかにあった。 たくさんの袋を外か・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・あの十力の尊い舎利でした。あの十力とは誰でしょうか。私はやっとその名を聞いただけです。二人もまたその名をやっと聞いただけでした。けれどもこの蒼鷹のように若い二人がつつましく草の上にひざまずき指を膝に組んでいたことはなぜでしょうか。 さて・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
出典:青空文庫