・・・多分胸の動悸を象徴するためであろうか、機関車のような者を舞台裏で聞かせるがあれは少し変である。 容疑者の容疑をもう一段強めるために、もう一つのエピソードを導入したいので次のような仕かけを考えたものである。この挿話の主人公夫婦として現われ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・道具の汚いのと、役者の絶句と、演芸中に舞台裏で大道具の釘を打つ音が台辞を邪魔することなぞは、他では余り見受けない景物である。寒い芝居小屋だ。それに土間で小児の泣く声と、立ち歩くのを叱る出方の尖り声とが耳障りになる。中幕の河庄では、芝三松の小・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・「与党工作の舞台裏」で楢橋氏が首相を動かしているいきさつが解剖され、極めて興味あるくだりがあった。これからつくろうとする新党の性格にふれて、十四日、楢橋氏は首相に向い次のような意味の話をした。「あなたは三菱の婿であり、これまで資本家の代表で・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 今まで後ばかり向き続けていたお君の存在が其処で或る点まではっきりするばかりでなく、舞台裏から迄見守る実意があれば、あの場合、重苦しい着物をゆるめる気になるのが、女として心持の上で必然なのである。 お絹に、遺品として蛇を貰ったところ・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ ブルガーコフが諷刺しているのはソヴェトの舞台裏ばかりじゃない。彼は、革命という事業をも「赤紫島」で諷刺している。真面目にとり扱っているような風ではあるが、そこには狡猾にひやかしが雑ぜられている。劇中劇などと逃げを打って、イヤに比喩めか・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 机のまわりにかたまっている子供たちは、珍しそうな顔をして、その表を見守った。 廊下では子供たちが、さっき舞台からきいたインドの子供の歌のふしをうたいながら歩いている。 舞台裏へ行ったら、これからインドの民衆が、イギリス人とブラ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ ――下まわりはどうなんだい? 舞台裏だけ働いてるような連中……そこが大切だ。 ――そうだ。それはまた別な賃銀標準ではらわれてるんだ。劇場労働の種類が三つに分類されている。働くものの資格が十級あって、やる労働の種類の基本賃銀に資格を示す・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫