・・・ 学生時代には柔道もやり、またボートの選手で、それが舵手であったということに意義があるように思われる。弓術も好きであって、これは晩年にも養生のための唯一の運動として続けていたようである。昔は将棋を試みた事もあり、また筆者などと一緒に昔の・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 三十分後に第三金時丸の舵手は、左に燈台を見た。 コムパスは、南西を指していた。ところが、そんな処に、島はない筈であった。 コーターマスターは、メーツに、「どうもおかしい」旨を告げた。 メーツは、ブリッジで、涼風に吹かれなが・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・桶や袋や箱を重く積込んだ渡船は帆をかけ、舵手席に、平静で、冷やかな眼をしたパンコフが坐り、舷には灰色の脆い早春の氷塊が濁った水に漂いながらぶつかる。北風が岸に波によせて戯れ、太陽が氷塊の青く硝子のような脇腹に当って明るく白い束のように反射し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫