・・・たった一つ、芥子粒ほどのプライドがある。それは、私が馬鹿であるということである。全く無益な、路傍の苦労ばかり、それも自ら求めて十年間、転輾して来たということである。けれども、また、考えてみると、それは、読者諸君が、これから文豪になるために、・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・は一粒の芥子粒で隠蔽される。これも言わば精神的視角の問題である。この見やすい道理を小学校でも中学校でもどこでも教わらない人が多数いるような気がする。 自分は高等学校の時先生からたいへんにいいことを教わった。それは、太陽や月の直径の視角が・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ふだんその人は真面目に勉強しているのだが、或る理由からお金がちっともとれず、一緒に暮している女のひとと生活する必要のためには、夜、餉台の上まで低く電燈を引っぱり下してその下で、細かい細かい面相で芥子粒位のものを描く仕事をしなければならない。・・・ 宮本百合子 「百銭」
出典:青空文庫