・・・ところが、その家の庭に咲き誇った夕顔をせせりに来る蛾の群れが時々この芳紀二八の花嫁をからかいに来る、そのたびに花嫁がたまぎるような悲鳴を上げてこわがるので、むすこ思いの父親はその次の年から断然夕顔の栽培を中止したという実例があるくらいである・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・しかし、どんな式服を着ていたかと聞かれると、たった今見て来たばかりの花嫁の心像は忽然として灰色の幽霊のようにぼやけたものになってしまう。「あなたの懐中時計の六時の所はどんな数字が書いてありますか」と聞いてみると、大概の人はちょっと小首を・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・るかと思うと、また一方ではある時期には群集を選ぶが他の時期、特に営巣生殖の時期には群れを離れて自分だけの領地を占領割拠し、それを結婚の予備行為とした上で歌を歌って領域占領のプロパガンダを叫び、そうして花嫁を呼び迎える鳥類もある。 エゴイ・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・「世界の花嫁」まで見て割愛して帰って来た。連句はとうとうお休みである。 アメリカレビューやウィンナ舞踊を見た眼で見た少女歌劇は実に綺麗で可愛らしいものではあったが、如何にもか弱く、かぼそく、桜の花と云うよりはむしろガラス製の人形でも見る・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・たいため、チンとした花嫁姿が一時も早く見たかったため殆ど独断的に定めてしまったと云ってもいいほどである。 気心の知れない赤の他人にやるよりはと云い出したお節の話が、お節自身でさえ予気(して居なかったほど都合よく運んで、別にあらたまった片・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ よくお聞き、何物にもかえがたい私の妹をだよ、たった一人の、―― どうぞお前方には尊すぎる花嫁を迎える新床をやんわりと柔らかくフンワリとやさしくしてお呉れ。どうぞね、土よ。 残されて歎く一人の姉の願いを聞いてお呉れ。 雨が・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・「黒人の花嫁! 黒人の花嫁!」 ひろ子が笑い涙を溜めながら囃した。「こんな嫁はんあらへん――親出や、親出や」「階下へいて見せたろ」「――一寸待って、何ぞ頭へ被らなあかへんわ、ええもんがある、ええもんがある」 その上に・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・“The Four Horseman of Apocalypse.”を書いて俄に注目の焦点と成った西班牙のブラスコ・イバンツを始め、松村みね子氏によって翻訳された「人馬の花嫁」の作者、ロード・ダンサニー其他、H. G. Wells, Joh・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
この間、『サン』を見ていたら、福島県のどこかの村の結婚式の写真が出ていた。昔ながらの角かくしをかぶって裾模様の式服を着た花嫁が、健康な農村の娘さんらしい膝のうずたかさでかしこまって坐っている。婿さんの方は、洋服姿で、これも・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・長男の鉄夫さんが花嫁をもらわれ、勝彦さんが出征され、松の茂った丘や玉川へ向う眺望のよい病床も多端であった。 その前ごろから、孝子夫人はラグーザ玉子の絵をいくつか集めて居られた。額のかかっている応接間まで歩いて来られ、ラグーザ玉子が、老年・・・ 宮本百合子 「白藤」
出典:青空文庫