・・・ 私はこの社会に於て弱者に対して、若しくは貧窮者に対して、これを救うという場合に、単にそれを気の毒だから助けてやるとか、若しくは慈善は善なる行為であるから救うとかいうのでは、反ってその人間を堕落させるのみで、決して社会の為めになるもので・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・ 文芸が趣味であり、また、単に自己享楽のためであり、若しくは、芸であると解する人々は、いかに理窟を言っても、根性の底に、昔の幇間的態度の抜けないのを見る。それは文芸の隆盛な時代は、大概太平な時代であったからである。そして、芸術が享楽階級・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・今迄の詩が休息の状態、若しくは、静息の状態に足を佇めているものとしたら今日の詩は疑と激動の中から生れてくる。然しこうした詩の徴候は或は現在の生活に限られている現象であるかも知れない。しかし、芸術は其の時代の霊魂である。鏡である。詩は其の時代・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・ 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷土的な物語は、これを新興童話の名目の下に、今後必ずや発達しなければならぬ機運に置かれています。いまの児童の読物のあまりに杜撰なる、不真面目なる、・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・稀れに傾向の著るしい作家があって、虚無主義に立ったり厭世主義に立ったり若しくは享楽主義に立ったりしても、其処にはそれ/″\固い信念と強い主張と深い哲学とがある。斯くて人間性の生面に深く徹して行くことを忘れない。 今の我が文壇には右の如き・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・――それに又其等の学校を出れば一定の職業を与えらるゝのが――在来の習慣若しくは形式になっている。此の如き大学の組織である以上、吾々にとっては殆んど無意味である。 そうすると如何しても今のところ小学校が一番重大な使命をもっている。又小学校・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・またロシアの饑饉に対し、オーストリー・ハンガリーの饑饉に対し、若しくは戦後のドイツに対して世界人類の取るべき手段は他に幾らもあったであろう。四 然しそればかりではなく、原始キリスト教の精神、いわゆるキリストの教というものと今日の・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・そして、彼が軍艦に乗り組んでそこでの生活を目撃しながら、その心眼に最もよく這入ったものは、士官若しくはそれ以上の人々の生活と、その愉快なことゝ、戦争の爽快さであって、下級の水兵の生活は、その関心外にあった。たゞ、僅かに水兵の石炭積みの苦痛が・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・巴里、若しくは日本高円寺の恐るべき生活の中に往々見出し得るこの種の『半偉人』の中でも、サミュエルは特に『失敗せる傑作』を書く男であった。彼は彼の制作よりも寧ろ彼の為人の裡に詩を輝かす病的、空想的の人物であった。未だ見ぬ太宰よ。ぶしつけ、ごめ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・一、見舞い絶対に謝絶、若しくは時間定めて看守立ち合い。一、その他、たくさんある。思い出し次第、書きつづける。忘れねばこそ、思い出さずそろ、か。(この日、退院の約束、断腸「出してくれ!」「やかまし!」どしんのもの音ありて、秋の・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
出典:青空文庫