・・・ こんにち、文壇の作家たちが、めいめいの特色となっている角度やニュアンスを失うまいとしながら社会の現実観と自己の創作方法との間に生じている悲劇的な裂けめにはさまって苦闘しているばかりではない。現代文学のその裂けめから、おびただしい土砂崩・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・もとより読者の支持がなかったから、つぶれたのではなかった。苦闘していた「民報」の最後に打撃を加えた出火事件の真相に対して、官憲はどんな調査をしただろう。 のこっている老舗の一つが、依然として講談社であり、そのすべての講談社的特性において・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ジョルジ・サンドは、はじめの結婚にやぶれてのち、生活のために苦闘しながら、女性の権利を主張した「アンジアナ」をかいたし、エリオットも文筆からの収入で生活しなければならない婦人として小説をかきはじめた。これらすべての婦人作家が、様々のテーマを・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・とか種々の委員会への分散的吸収にまかせざるを得なくなって、この夏、新体制の声とともに、婦選獲得同盟は十八年の苦闘の歴史を閉じて解消してしまったのであった。 婦選の動きが日本にあってはこのように見るも痛々しい浮沈をくりかえして、公民権さえ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・今日、聰明で、誠実な若い世代は、自身の世代が蒙った損傷をとりかえそうとして苦闘しているのである。 その努力の一つの表現として、自分たちの新聞一枚も出そうとしている人々に対して、守るべき信義というものは厳然と立っている。それは歴史を偽らぬ・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・まじめな若い精神は、はっきりそういう周囲と抵抗して、経済的な独立とそれと並行する勉学の可能をさがして、苦闘しているのである。ことしは、就職難がいちじるしい。現在、さまざまの理由から労働法規を無視して失業させられている男女は、新しい何かの職業・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・一八二五年、ロシアでは有名な十二月党の反乱が悲劇的終結をとげた年、愈々この出版事業にとりかかった二十六歳のバルザックは、自分から活字屋になり、印刷屋になり、本屋にまでなって悪戦苦闘したのであったが、この金銭争奪で未熟な事業家バルザックがその・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・のを感じ、「女性らしい一くさりの插話さえもない誠に殺風景な苦闘史」であったと見ている。そして、「私はここでも、芸術の道すらも――或いは芸術の道であるためより深刻に――生活に困らない人間でなくては、とうてい出来ない仕事であると痛切に感じさ・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・そして、今なお、一生懸命にふり出した時の希望をすてず、悪戦し苦闘している女の仲間を、憫然らしく流し目にみる。ものわかりのわるい人たちとしてみる。 若さを喪失することにある悪は、フランスの貴族的な女詩人マダム・ノアイユが詠歎したような哲学・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・作品でない日記をよむと、一葉が生活と苦闘して、女が社会からうけている扱い、又女同士の間、文学の仲間たちにさえある貧富の懸隔とその心理などについてどんなに鋭く感じ、疑い、悩んでいるかがよくわかる。しかし、当時の彼女の「文学」という観念は、それ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫