・・・ 私は大学で英文学という専門をやりました。その英文学というものはどんなものかとお尋ねになるかも知れませんが、それを三年専攻した私にも何が何だかまあ夢中だったのです。その頃はジクソンという人が教師でした。私はその先生の前で詩を読ませられた・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ ゆえに本塾の教育は、まず文学を主として、日本の文字文章を奨励し、字を知るためには漢書をも用い、学問の本体はすなわち英学にして、英字、英語、英文を教え、物理学の普通より、数学、地理、歴史、簿記法、商法律、経済学等に終り、なお英書の難文を・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・処が其の両者を読み比べて見るとどうであろう。英文は元来自分には少しおかったるい方だから、余り大口を利く訳には行かぬが、兎に角原詩よりも訳の方が、趣味も詩想もよく分る、原文では十遍読んでも分らぬのが、訳の方では一度で種々の美所が分って来る、し・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・ 日本女子大学の英文科予科に一学期ほどいたことがある。ここの学校でも心に刻まれているのは、構内の雑木林である。網野菊、丹野禎子という友達たちと、そこで喋った雑木林が忘られない。学校そのもの、女学生そのものについて、いい感じはなかった・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・教養あるレスペクタブル・ファミリイであり、レスペクタブル・ファミリイと英語で形容するにふさわしい英文学の影響が、単に趣味にとどまらず作家的内容の一部にまで浸透しています。あなたは一人の母として、三人の小さい者たちとともに宵に寝、早朝におきつ・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・ 文学らしい言葉で云われている林房雄のみことのりに、だまって肯く英文学者を前において、彼は更に首相の息子吉田健一の「英国の文学」を、推薦している。吉田健一は「イギリスの文学はイギリス人の生活のふち飾りとして、レースの如く美しくあらわ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 女学校がすんで、目白の日本女子大の英文科の予科に一学期ほどいて、やめた後だったと思う。千葉先生と河崎なつ先生とが、桑田芳蔵博士の教室で心理学の勉強をされたとき私を仲間に加えて下すったことがあった。ヴントの本で、一寸した実験もやったりし・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ 目白の女子大学には、まだ成瀬校長が存命であって、私が英文予科の一年に入ったときは、ゴチックまがいの講堂で一人一人前へ出て画帳のようなものへ毛筆で何か文句を書かされたりした。私は大変本気な顔つきで、求めよ、さらば与へられん、という字を書・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・「本当はね、女子大学で英文科をしたから 英文科だといいんだけれどドイツ語なんかやって」Y「あなた、おうち お父さん何をしておいでです」「仏様」「え?」「――仏さまになっちゃった」 写真をとるN「あら 脚おうつ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 芥川さんは、大学の制服の膝をきちんと座布団の上に坐って――確にあれは制服だったが、でも、大学を一体芥川さんは何年に出られたのかと思って、今、年譜を調べて見たら、大正五年七月英文科を卒業とある。そうすると、六年と思ったのは五年の秋ででも・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
出典:青空文庫