・・・ 世論調査には、莫大な費用がかかる。人手もいる。そのために、その費用の支出にたえ調査機関としての人手をもち、同時にその世論調査そのものがそれを行う経営にとってあるニュース・バリューをもって宣伝に役立つ場合、世論調査がとりあげられやすい。・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ジイドは、信じられぬ程の偏執で、その必要は、スターリンの犠牲であり、欺かれたもの達である労働者の上に死刑執行人と、搾取者とが君臨して「ロシアの労働者は幸福であると、フランスの労働者に信ぜしめる為の莫大な宣伝費をつか」うためであると云っている・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・軍部関係で闇に流れた莫大な紙があった。戦後、続出した新興出版事業者は、ほとんど例外なしに、この敗戦おきみやげたる紙の操作によって出発した。これらの事実については火野葦平のみならず、軍と「民間」との消息に通じた多くの人がもとより無智であろうは・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・した国外の人々は、間違えてふたをあけた壺からあばれ出した暴力を、民主的な理性と良心とによって粉砕するまでに、七年の歳月と、一五〇〇万人の軍人と、その幾層倍かにあたる一般市民の生命と天文学の数字のように莫大な費用を費さなければならなかった。・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・自分の分らない技術によって組立てられている世界、そしてその芸術は莫大な金銭によってあがなわれ、大家といわれているとき、文化感覚の中にある卑屈な事大主義が社会人として正直な、しかしそれは素人の批評である批評をひかえめにさせる。そのために大局か・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・所謂高貴な骨董趣味に溺れて莫大な蒐集をはじめたり、邸宅を構えようとしたり。総ては金のいることばかりである。 この期間は、今日になって眺めるとバルザックのさして永くない生涯にとって、最も急テムポに彼の政治上の王党派的傾向とカソリック精神と・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・健康な人間が健康な人間を殺戮するために科学の精髄をつくして研究している、その莫大なエネルギーと費用の幾分でもが、人類にとって不幸きわまりないこの病菌からの解放のためにふりむけられることこそ、ヒューマニティーの義務であると思わずにいられない。・・・ 宮本百合子 「病菌とたたかう人々」
・・・一九一六年にロシアの警保局が莫大な金をつかって『ロシアの意志』という、殆ど革命的な新聞を発刊し、アンドレーエフや、ブーニン、クープリン、ソログープなどを動員したことがあった。その時、極く少数の作家がそれへの参加を拒絶したのであったが、ゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・アメリカの莫大なる天然資源、素晴らしい国内消費、不断に展開しつつある繁栄。これらもまた考慮に入れなければならない。西欧の資本家は利潤と返還資金を待望している。英国がこれらを供給しなければならぬ。 それ故労働組合運動は経済単位としての英国・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・祖父の死後秋三の父は莫大な家産を蕩尽して出奔した。それに引き換え、勘次の父は村会を圧する程隆盛になって来た。そこで勘次の父は秋三の家が没落して他人手に渡ろうとした時、復讐と恩酬とを籠めたあらゆる意味において、「今だ!」と思った。そして、妻が・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫