・・・ 中島湘煙が、いいといった昔風な家庭の土台をなす益軒流の観念に対して、諭吉は歯に衣をきせず「女子が此の教に従って萎縮すればするほど男子のために便利なるゆえ、男子の方が却って女大学を唱え以て自身の我儘を恣にするもの多し女子たるものは決して・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ようとする巨大な意志と計画とその実現であるソヴェト五ヵ年計画とその完成に向って捧げられているソヴェト大衆の団結した努力、意志は、大詰の舞台では表現されず花形舞踊手一人の手でふりまわすヴェールの幅だけに萎縮されてしまった。 現代のソヴェト・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・で作家を萎縮させる批評なんぞ蹴とばせ! 作家は何でも作品を書けばいいんだ。そういう声がブルジョア文壇で叫ばれていた「文芸復興」の呼び声に呼応してさかんにこだました。 その時分、私の書いた「一連の非プロレタリア的作品」という作品批評と感想・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・これまでの文学が、しかけていた話の中途でその主題をさえぎられたように方向を失い萎縮しはじめた時期だった。その半面に昭和十四年は、特に婦人作家たちの活躍した年として特徴づけられた。その原因について、男の文学者の或る人は、女性の社会感覚がせまい・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
・・・弱気な若いものが中途半端に萎縮し、すこし勝気な青年たちが、反抗から放蕩に陥ったりすることは理解される。自身にのしかかるそういう重荷の歴史性を、はっきり解剖し、根底から社会通念を人間が生きるに合理的な方面に導こうとする建設の道へ身を投じる者は・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・彼女は泥まびれになってころがり時には泣きながらも、萎縮しなかった率直な生活意欲を保ちつづけた。封建的な要素の多い人情にからまりながら次第にそれらが、日本の社会の歴史的なものであるという本質をつかみ始めて来ている。彼女よりもひと昔まえの一九二・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ プロレタリア文学運動を退潮せしめた力は、社会情勢の有機体の内でやはりブルジョア文学をも萎縮させざるを得ない実際となった。一般人の生活水準の低下と社会的自主性の低減は、日本のブルジョア文学の独特な伝統が、ヨーロッパのイッヒ・ロマンとはま・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・それと同じように、余所目には痩せて血色の悪い秀麿が、自己の力を知覚していて、脳髄が医者の謂う無動作性萎縮に陥いらねば好いがと憂えている。そして思量の体操をする積りで、哲学の本なんぞを読み耽っているのである。お母あ様程には、秀麿の健康状態に就・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・慶長から元禄へかけて、すなわち十七世紀の間は、前代の余勢でまだ剛宕な精神や冒険的な精神が残っているが、その後は目に見えて日本人の創造活動が萎縮してくる。思想的情況もまたそうである。 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・これなくしては人は意識の混沌と欲求の分裂との間に萎縮しおわらなくてはならぬ。人が何らか積極的の生を営み得るためには「虚無」さえも偶像であり得る。 偶像が破壊せられなくてはならないのは、それが象徴的の効用を失って硬化するゆえである。硬化す・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫