・・・手近な歌集の中から口調のいいと思うのと、悪いと思うのとを選り分けて、おのおのに相当する曲線を画いてみて両者の間に何か著しい特徴が線の上から見えるかと思って調べてみた。何しろ僅少な材料であるから何事も確かな事は云われないが、ただ一つ二つ気の付・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・歌を専門的に研究している人達の分析的な細かい批評眼で見た時にはかなりに著しい変化と思われるような場合でもそういう細かい処を見ないでただ「顔」だけ見ている門外漢には、やはり同じ顔しか見えないものではないかと思われる。従って私はもしも歌人が自分・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
・・・ 映画と連句とが個々の二つの断片の連結のモンタージュにおいてほとんど全く同一であるにかかわらず、全体としての形態において著しい相違のあるのは、いわゆる筋が通っているのと通っていないのとの区別である。多くの映画は一通りは論理的につながった・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・赤犬の肉は黴毒の患者に著しい効験があると一般に信ぜられて居るのである。太十は酷く其胸を焦した。五 次の日に懇意な一人が太十の畑をおとずれた。彼は能く来た。そうして噺が興に乗じて来る時不器用に割った西瓜が彼等の間に置かれるので・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ これではまだ日高君は首肯されないかも知れないからもっとも著しい例を挙げると、ゼ・ニガー・オブ・ゼ・ナーシッサスのようなものである。これは一人の黒奴が、ナーシッサスと云う船に乗り込んで航海の途中に病死する物語であるが、黒奴の船中生活を叙・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・最も著しい例は、『ノラ』というようなものであります。それがイブセンという人は人間の代表者であると共に彼自身の代表者であるという特殊の点を発揮している。イミテーションではない。今までの道徳はそうだから、たといその道徳は不都合であるとは考えてい・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・その他の一般の菓物は殆ど香気を持たぬ。○くだものの旨き部分 一個の菓物のうちで処によりて味に違いがある。一般にいうと心の方よりは皮に近い方が甘くて、尖の方よりは本の方即軸の方が甘味が多い。その著しい例は林檎である。林檎は心までも食う事が・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・一応文学趣味を今日も満足させている芥川龍之介の散文が、教養的であっても、極めて脆い体質をそなえていることなどと著しい対照をも示すわけだろう。 藤村の歿後、何かの新聞に島崎鶏二氏の書いた文章を見かけた。そして生涯精励であるいかなる作家も、・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ 皮相的な、浮きあがった表現の著しい例をわれわれは、この小説のクライマックスともいうべき「共同視察」の場面に発見する。ドヤドヤと視察者が入ってくる。佐田はさすがに「厄介なことになった」と思うが、あくまで自由な質問応答をやり、「活溌にやる・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 幾世代の歴史の間で、人間はたしかに進歩して来ているのだけれど、その著しい進歩はどうして可能だったのだろう。 例を近くにとってみれば、一人の男、一人の女がそんなに入り組んだ諸要素をもって生れて来ていて、それでどうして、その要素の各方・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
出典:青空文庫