・・・臼杵川は日向灘とつながって潮の満干が極めて著しい。臼杵へ出入りする船の便宜を計って、川と中島との間に橋というものは一つもない。軽舟に棹さして悠暢に別荘への往復をするのだが、楓樹の多いこの庭が、ついた日の暮方夕立に濡れて何ともいえない風情であ・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・巡査の白服が夜目に著しい。追いついて又宿を訊いたら巡査は当惑して立ち止った。止ったところの左手に真暗なトンネルが入口を見せて居る。そこを抜け、まだ遠く歩かねばならないのであった。 巡査と共に立ち止った人中に、一人の漁師が居た。「俺が・・・ 宮本百合子 「黒い驢馬と白い山羊」
・・・ 使用上、所謂、敬語、階級的な感情、観念を現す差別の多いこと、女の言葉、男の言葉に著しい違いのある点、文字が見た眼には、字画がグロテスクで、実は精緻な直感に欠けていることなども不満としてあげられます。 けれども、ペンをとり、物を書こ・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・鉄分とカルシウム分の減退は著しいのだから、どうかどうかその点を御注意下さい。バタをつけたパンは駄目ですか? 何とかしてバタをあがるとよいと思うのだが。 私の体はこの間又ケイオーで診て貰いました。ラッセルはもうすっかりなくなっています。御・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・歴史的題材を取り扱う画において、特にこの傾向は著しい。人物を描けば、我々の目前に生きている人ではなくて、豊太閤である。あるいは狗子仏性を問答する禅僧である。あるいは釈迦の誕生を見まもる女の群れである。風景を描けば、そこには千の与四郎がたたず・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・塗り残された未完成の画の示唆的なおもしろさ、それを巧妙に生かすのは日本画の伝統の著しい特徴であった。そこには多くの想像の余地が残される。不幸にもそれは堕落してごまかしの伝統を造ったが、それ自身には堕落した手法とは言えない。もし「意味深い形」・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・後者は、その時代の僧侶がいかに人間の肉体の上にも勢力を持っていたかを明示している二三の著しい社会的現象によって、いや応なしに証明せられている。この特徴は、多少形を変えてはいるが、後来日本に発生したあらゆる宗教に必ず現われている。たとえば、日・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・新事実をあげれば、まず自然科学の進歩、社会主義の勃興、一般人民の物質的享楽への権利の主張、徹底的な虚無主義の出現――芸術上においては様式の単純化、日常生活の外形的な細部の描写の成功などであるが、そこに著しい進歩があったとは言っても、何もより・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・ たとえば青春期に著しい恋愛の憧憬や性慾の発動には、それを刺激し強める種類の滋養は必要でありません。なぜなら、そういう種類の滋養はわざわざ与えるまでもなく、日常の生活にありあまるほどあるからです。街を歩く。そこに美しい女がいます。その流・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・ キェルケゴオルはその誠実な人格的生活、真生活築造の情熱、及びプラグマチズム風の認識論、特に主意的な人生観、著しい宗教的傾向、ただ宗教心の内にのみ真実になる個人主義、――などにおいて十分注意せられる価値がある。 私がキェルケゴオルを・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫