・・・五十一頁に亙る探偵小説は、主人公が「現実と理性との薄明にさ迷っている知識階級で」あり「このような知識階級にあり勝ちな、殊に斯う云う犯罪事件に際して出て来る特徴は、どうも現実を理性で納得させると云う趣があることである。ほんとのところを言えと言・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・夜の十二時ごろでもすっかりは暮れきれず、日本の夏の七八時ごろの薄明りが夜中ずっとのこっている。日本の宵には空にうすら明るみがただよっていても、樹かげや大地から濃い闇が這いのぼって来て浴衣の白さを目立たせるのだけれど、北の夏の白夜の明るさには・・・ 宮本百合子 「モスクワ」
・・・いつまでもそれを見ていると、彼の世界はただ拡大された乳房ばかりとなって薄明が迫って来る。やがて乳房の山は電光の照明に応じて空間に絢爛な線を引き垂れ、重々しい重量を示しながら崩れた砲塔のように影像を蓄えてのめり出した。 彼は夜になると家を・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫