・・・ 多年藤原博士の心にかけて来られた渦巻に関する各種の現象でも、実にいろいろの不思議な問題が包蔵されているようであるが、現在までの物理学はまだそれらを問題として捕捉し解析の俎上に載せうるだけに進んでいないように見える。流体力学の専門家はそ・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・近頃藤原理学士が乾燥に関する面白い物理学的の理論を出された。おそらくこの方面の先駆と見てよかろうと思う。 以上は自分の狭い知識の範囲内で僅少な実例を挙げたに過ぎないが、要するにこれらの産業方面でも意外な物理学応用の区域がある事は疑いのな・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・『太平記』の繙読は藤原藤房の生涯について景仰の念を起させたに過ぎない。わたくしはそもそもかくの如き観念をいずこから学び得たのであろうか。その由って来るところを尋ねる時、少年のころ親しく見聞した社会一般の情勢を回顧しなければならない。即ち明治・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・およぐ時よるべなきさまの蛙かな命婦より牡丹餅たばす彼岸かな更衣母なん藤原氏なりけり真しらけのよね一升や鮓のめしおろしおく笈になゐふる夏野かな夕顔や黄に咲いたるもあるべかり夜を寒み小冠者臥したり北枕高燈籠消・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・〕うしろでふんふんうなずいているのは藤原清作だ。あいつは太田だからよくわかっているのだ。〔尤も向うの杉のついているところは北側でこっちは南と東です。その関係もありますがそうでなくてもこっちは北側でも杉やひのきは生えません。あすこの崖で見・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ そこで土曜日に私は藤原慶次郎にその話をしました。そして誰にもその場所をはなさないなら一緒に行こうと相談しました。すると慶次郎はまるでよろこんで言いました。「楢渡なら方向はちゃんとわかっているよ。あすこでしばらく木炭を焼いていたのだ・・・ 宮沢賢治 「谷」
「煙山にエレッキのやなぎの木があるよ。」 藤原慶次郎がだしぬけに私に云いました。私たちがみんな教室に入って、机に座り、先生はまだ教員室に寄っている間でした。尋常四年の二学期のはじめ頃だったと思います。「エレキの楊の木・・・ 宮沢賢治 「鳥をとるやなぎ」
・・・殊に私は藤原慶次郎といっしょに出て行きました。町の方の子供らが出て来るのは日曜日に限っていましたから私どもはどんな日でも初蕈や栗をたくさんとりました。ずいぶん遠くまでも行ったのでしたが日曜には一層遠くまで出掛けました。 ところが、九月の・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・ ずっと後世になりヨーロッパの中世にあたる日本の藤原時代、女の人はどんなふうに縫ったり織ったりしていたのだろう。源氏物語の中には貴族の婦人たちが、自分で縫物をやっている描写はないと思う。優婉な紫の上が光君と一緒に、周囲の女性たちにおくる・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・有名な源氏物語は藤原時代の封建貴族文化の精華であるといわれているが、あの作品は同じ藤原時代に文盲ではだしで一度び飢饉が来ると道ばたに倒れて飢え死んだ庶民のいかなる心持ちをも反映してはいないのである。文字そのものさえ、貴族に独占されていた。現・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫