・・・また暑中休暇の期間だけ、閑静な処にて自然に親しませることは、虚弱な児童等にとって必要なことである。林間学校、キャンプ生活、いずれも理想的なるに相違ないが、それには、費用のかゝることであり、無産者の子供は、加わることができない。要は、適当なる・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・俺は痩の虚弱ではあるけれど、やッと云って躍蒐る、バチッという音がして、何か斯う大きなもの、トサ其時は思われたがな、それがビュッと飛で来る、耳がグヮンと鳴る。打たなと気が付た頃には、敵の奴めワッと云て山査子の叢立に寄懸って了った。匝れば匝られ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・環境にエキスキュースを求めるのはややもすれば、精神的虚弱者のことであるのを忘れてはならぬ。恋愛は、ことに女性にとって、その人生の至宝の、三つとはない貴重なものである。その恋愛にできるだけ高い、大きな理想を盛らないことは実に惜しむべきことであ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・が、あれはきたならしいやつですから、相手になさらぬように、それなのに、その嫌らしい、その四十歳の作家が、誇張でなしに、血を吐きながらでも、本流の小説を書こうと努め、その努力が却ってみなに嫌われ、三人の虚弱の幼児をかかえ、夫婦は心から笑い合っ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ずっと大きくなってからよく両親から聞かされたところによると、その頃とかく虚弱であった自分を医師の勧めによって「塩湯治」に連れて行ったのだが、いよいよ海水浴をさせようとするとひどく怖がって泣き叫んでどうしても手に合わないので、仕方なく宿屋で海・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・京都大阪辺の富豪家に虚弱なる子あれば、之を八瀬大原の民家に託して養育する者ありと言う。田舎の食物の粗なるは勿論のことなれども、田舎の物を食して田舎風に運動遊戯すれば、身体に利する所は都会の美食に勝るものあるが故なり。左れば小児を丈夫に養育せ・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 然し、例えば彼女のように、或る程度の人格的覚醒と同時に、伝習的虚弱さを具有する今日の多数の女性の為には、少くとも、生活の根本動機を自己の心意に置き得る丈の役には立つと思います。 良心の疚しさを、種々な自他の慣習的弁護で云い繕いなが・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・神経質な、激情的で心も体も虚弱な三十八歳の男が、自分のような、生活慾の強い、どの点からも容赦のない女と一緒に暮すのがやり切れず、病的になり、自分を殺して仕舞った。不幸なぞっとする事実だ。私は、自分と云うものさえ局外から観察し、悲しむべき人間・・・ 宮本百合子 「文字のある紙片」
出典:青空文庫