・・・ 鴉声が蛮声に変った。「ばかにしないで! 見えすいていますよ。泊りたかったら、五十万、いや百万円お出し。」 すべて、失敗である。「何も、君、そんなに怒る事は無いじゃないか。酔ったから、ここへ、ちょっと、……」「だめ、だめ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ 笠井氏は既に泥酔に近く、あたりかまわず大声を張りあげて喚き散らすので、他の酔客たちも興が覚めた顔つきで、頬杖なんかつきながら、ぼんやり笠井氏の蛮声に耳を傾けていました。「ただ、この、伊藤に向って一こと言って置きたい事があるんだ。そ・・・ 太宰治 「女類」
・・・ と叫び、金盥も打ちつづけていまして、近所近辺の人たちも皆、起きて外へ飛び出し、騒ぎが大きくなるばかりでございましたので、おまわりは、蛮声を張りあげて、二階の者たちに、店の戸をあけろ! と呶鳴りました。それでどうやら二階の狂乱もしずまり、二・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ 数枝は、呆れて、蛮声を発した。「白虎隊は、ちがうね。」さちよの祖父が白虎隊のひとりだったことを数枝は、さちよから聞かされて知っていた。「そんなんじゃないのよ。」さちよは、暗闇の中で、とてもやさしく微笑んだ。「あたし、巴御前じゃ・・・ 太宰治 「火の鳥」
出典:青空文庫