・・・ ミス、何とかいうアメリカのドクトル血液検査に来た由、八重案内しろと云わる。其那こといやだというのを、バチェラーは、道庁や佐藤博士の御厄介になって居るからことわれず、八重電報で呼ばれ、かえって入るともうその人が来て居る。 目的や何か・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ もし、坐ったり、腰かけたっきりで仕事をしていれば、やっぱり何分間かはモーターを止め、職場じゅうが立って手を、足を、腰を動かし血液の循環をよくするため体操をしなければいけない! そのほか川が近かったら働く婦人たちよ、十分水で遊びなさ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・作家として、ロシアの歴史、民衆というもの、新社会というものに対する心持の内部的組立てが変ってしまい、日常の感動が新鮮な脈うちで彼の正直な、老いても猶純な血液を鼓動させる裡で、ゴーリキイはソレント生活の気分の中で、考照し、追憶したロシア民衆を・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・ただ、そのしなやかな細かい細胞をながれてうるおして居る色のない血液のそのくっくっと云って居る鼓動と私の赤い、あったかい同じような細胞全体をうるおしてる血液の鼓動とがピッタリと一つもののようにしずかにドキンドキンと波うって居るのを感じた。・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 真に幸福な事には私の体には何の濁った血液も流れ入って居らず健な心臓と頭を持って生活して行けるので私の周囲に起って来るそう云うみじめな事柄を見ききすると実にたまらない様になって来る。「幽霊」のオスワルド・アルヴィングが受けたと同じ深・・・ 宮本百合子 「ひととき」
・・・眼の水晶体が熱と血液の毒素のためにむくんで、ひどく凸レンズになっていたために、そんなに吉岡の顔も小さく見えたのであった。 ひろ子は、死んだ自分が又生きられたことを、吉岡の骨折りときりはなして考えることが出来なかった。重吉はそのいきさつを・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ある地味では深かった根も、ここではその深さが役に立たずより多くの露出となって結果し、枯れるモメントとして作用するというようなことが、文化のギャップとでもいうようなものの極めて血液的ないきさつで存在するのではないだろうか。 このことは何と・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・今度読んで特別心に刻まれたのは、それらのドライサアの作家としての特質が、アメリカという大陸の社会生活の血液循環に何とはっきり養われているかという点についてのおどろきである。 バルザックの作品の深さ大さにふれるとき、私たちは作家バルザック・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・ これを個人の気力の問題であるというひとが無くはないであろう。血液の型や体質の問題だというひとさえあるかもしれない。もしそうであるならば猶更、人生の生理こそ必要ではないか。千差万別の事情ではありながら、大略今日の物質と精神の窮乏の状態、・・・ 宮本百合子 「私たちの社会生物学」
出典:青空文庫