・・・は、だいたい、発表の年代順に、その作品の配列を行い、この第二巻は、それ故、第一巻の諸作品に直ぐつづいて発表せられたものの中から、特に十三篇を選んで編纂せられたのである。 ところで、私の最初の考えでは、この選集の巻数がいくら多くなってもか・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・それが暗示となって青扇の心にいままで絶えず働きかけその行いを掣肘して来たのではあるまいか。青扇のいままでのどこやら常人と異ったような態度は、すべて僕が彼になにげなく言ってやった言葉の期待を裏切らせまいとしてのもののようにも思われた。この男は・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・私ひとりが過去に於いて、ぶていさいな事を行い、いまもなお十分に聡明ではなく、悪評高く、その日暮しの貧乏な文士であるという事実のために、すべてがこのように気まずくなるのだ。「景色のいいところですね。」妻は窓外の津軽平野を眺めながら言った。・・・ 太宰治 「故郷」
・・・けれども、人間の行い得る最高至純の懺悔の形式は、かのゲッセマネの園に於ける神の子の無言の拝跪の姿である、とするならば、オーガスチンの懺悔録もまた、俗臭ふんぷんということになるであろう。みな、だめである。ここに言葉の運命がある。 安心する・・・ 太宰治 「思案の敗北」
・・・なお一般弾性体の破壊に関してその弱点の分布や相互の影響あるいは破壊の段階的進歩に関する実験的研究を行い、破壊という現象に関するなんらかの新しき方則を発見する事も必ずしも不可能ならざるべし。すなわち従来普通に考うるごとく、弾性体を等質なるもの・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・しかしこれは云うべくして行い難い注文であって、そのような人を求めた所でそれは無理な事である。相当な専門家でもすべての場合にぶっつかって少しもまごつかぬという人は甚だ稀であろう。しかしこの点は少しも心配することはないと思う。もともと実験の教授・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・御辞儀などはほんの一例ですが、すべて倫理的意義を含む個人の行為が幾分か従前よりは自由になったため、窮屈の度が取れたため、すなわち昔のように強いて行い、無理にもなすという瘠我慢も圧迫も微弱になったため、一言にして云えば徳義上の評価がいつとなく・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・仮令その結果は失敗に終っても、その遣ることが善いことを行い、それが同情に値いし、敬服に値いする観念を起させれば、それは成功である。そういう意味の成功を私は成功といいたい。十字架の上に磔にされても成功である。こういうのは余り宜い成功ではないか・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・と云う処まで十五分ばかり徒行いて、それから地下電気でもって「テームス」川の底を通って、それから汽車を乗換えて、いわゆる「ウエスト・エンド」辺に行くのだ。停車場まで着て十銭払って「リフト」へ乗った。連が三四人ある。駅夫が入口をしめて「リフト」・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・数百年の間、上士は圧制を行い、下士は圧制を受け、今日に至てこれを見れば、甲は借主のごとく乙は貸主のごとくにして、未だ明々白々の差引をなさず。また上士の輩は昔日の門閥を本位に定めて今日の同権を事変と視做し、自からまた下士に向て貸すところあるご・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫