おのれの行く末を思い、ぞっとして、いても立っても居られぬ思いの宵は、その本郷のアパアトから、ステッキずるずるひきずりながら上野公園まで歩いてみる。九月もなかば過ぎた頃のことである。私の白地の浴衣も、すでに季節はずれの感があ・・・ 太宰治 「座興に非ず」
・・・それで絵画におけるキュービズムやフュチュリズムの運命が、おそらくはこの種の映画の行く末を見せてくれるであろう。 発声映画 無声映画がようやく発達して、演技や見世物の代弁の地位を脱却し、固有の領域を設定しかけたときに、・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・妻は特にかわいがっていた太郎がわりに好運でなかった事を残念がっているらしかったが、私はどういうものか芋屋の店先に眠っているおさるの運命の行く末に心を引かれた。 ある夜夜ふけての帰り道に芋屋の角まで来ると、路地のごみ箱のそばをそろそろ歩い・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・それで私は自分の子供らの行く末を思うなら、そういうふうに今から教育しなければさきで困るのではないかと思う事もしばしばある。「赤羽で今電気をたくところをこさえているが、それができるとはや……」こんな事を話している男があった。電気をたくとい・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・驚く人の醒めぬ間を、ラヴェンと共に埒を出でたり。行く末は勿論アストラットじゃ」と三日過ぎてアストラットに帰れるラヴェンは父と妹に物語る。「ランスロット?」と父は驚きの眉を張る。女は「あな」とのみ髪に挿す花の色を顫わす。「二十余人の敵・・・ 夏目漱石 「薤露行」
出典:青空文庫