・・・夜具は申すまでもなく、絹布の上、枕頭の火桶へ湯沸を掛けて、茶盆をそれへ、煙草盆に火を生ける、手当が行届くのでありまする。 あまりの上首尾、小宮山は空可恐しく思っております。女は慇懃に手を突いて、「それでは、お緩り御寝みなさいまし、ま・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・勝元は宗全とは異って、人あたりの柔らかな、分別も道理はずれをせぬ、感情も細かに、智慧も行届く人であったが、さすがに大乱の片棒をかついだ人だけに、やはり※いところがあったと見えて、愛宕山権現に願掛けした。愛宕山は七高山の一として修験の大修行場・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・今度の地震では近い所の都市が幸いに無難であったので救護も比較的迅速に行き届くであろう。しかしもしや宝永安政タイプの大規模地震が主要の大都市を一なでになぎ倒す日が来たらわれらの愛する日本の国はどうなるか。小春の日光はおそらくこれほどうららかに・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・されども能くその萌芽を出して立派に生長すると否らざるとは、単に手入れの行届くと行届かざるとに依るなり。即ち培養の厚薄良否に依るというも可なり。いわゆる教育なるものは則ち能力の培養にして、人始めて生まれ落ちしより成人に及ぶまで、父母の言行によ・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・よってこのたびはまた、社中申合わせ、汐留奥平侯の屋鋪うちにあきたる長屋を借用し、かりに義塾出張の講堂となし、生徒の人員を限らず、教授の行届くだけ、つとめて初学の人を導かんとするに決せり。日本国中の人、商工農士の差別なく、洋学に志あらん者は来・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・ 蠣殻町の住いは手狭で、介抱が行き届くまいと言うので、浜町添邸の神戸某方で、三右衛門を引き取るように沙汰せられた。これは山本家の遠い親戚である。妻子はそこへ附き添って往った。そのうちに原田の女房も来た。 神戸方で三右衛門は二十七・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫