・・・ それですから行状を善くしている田舎の女は、たいてい夫婦の生活をいたしている外に、別な夢の生活を持っています。無条件にその夢に身を任せている女もあり、良心と戦いながらその夢を見ている女もありますが、どちらもこの夢の恋は platoniq・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 菊池寛の「忠直卿行状記」以下三十篇ちかい歴史的素材の小説も、やはり歴史小説でないことでは芥川の扱いかたに似ているが、芥川龍之介が知的懐疑、芸術至上の精神、美感、人生的哀感の表現として過去に題材を求めたのとは異って、菊池寛は、自身が日常・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・皆さんは菊池さんが「忠直卿行状記」というのを昔書かれたのをお読みかも知れませんけれども、封建時代の殿様は絶対に人間扱いではございません。何でも御無理、御尤もなのです。だから昔の殿様の家の仕来りがあるでしょう。こういう風にしてはいけない、こう・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・「忠直卿行状記」「恩讐の彼方に」等を生んだ菊池寛は、その作家としての特色の必然な発展と大戦後の経済界の膨脹につれて近代化したジャーナリズムの吸引によって、久米正雄と共に既に大衆文学へ移っている。さりとて上記の作家達が『文芸戦線』の文学運動に・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・モスクワのレーニン研究所所属レーニン博物館へ行ったものは、レーニンがウリヤーノフという本名で中学生だったころ、どんなに行状のよい優等生であったかを知るとともに、クレムリンに政府が引越して来てから、レーニンがどんな室に住んでいたかも、見ること・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 発展する階級の複雑多岐な歴史とのつながりにおいて、自分をふくむこれら一団の作家群のなまなましい行状記を眺め直すと、私はある創作的衝動を心に感じるほどである。さまざまの困難な時期を経て何年か後に、私はもちろんのこと当時の人々はいかなる角・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・ 例えば「忠直卿行状記」などをみると大名の君主とその家来との間にあった極端な形式主義を足場にしたのに対して割合に人間らしい常識を持っていた忠直卿がジリジリしてその腹立ちを当時の君主らしい乱暴狼藉に現わした。そして大名を辞めて殿様でなくな・・・ 宮本百合子 「“慰みの文学”」
・・・右や左に気兼ねをして、然もどんな実践力も示さない未組織インテリの態度に歯かみをした所まではいいが、ブルジョア才人は才に堕して、彼の「青春行状記」に現われた直木的科学万能論と共に、六方を踏みながらファッショの陣営へ乗り込んだ。「俺は何んに・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
出典:青空文庫