・・・ 焙られるような苦熱からは解放されたが、見当のつかない小僧は、彼に大きな衝撃を与えた。それでいて、その小僧っ子の見てい、感じてい、思ってい、言う言葉が、 彼は車室を見廻した。人は稀であった。彼の後から跟いて入って来た者もなかった・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・一九一八年ごろ日本におけるアイヌ民族の歴史的な悲劇に関心をひかれその春から秋急にアメリカへ立つまで北海道のアイヌ部落をめぐり暮した作者にとって公然と行われた朝鮮人虐殺は震撼的衝撃であった。亀戸事件、大杉事件どれ一つとっても権力の野蛮と惨虐が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
有島さんの死は余りに私にとっては大きな事柄なので、この場合それに対して批判するというような気持になっていません。ただそれによって私が強い衝撃を受けた、その気持に就いてだけお話ししたいと思います。 森鴎外先生のなくなられ・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・のジャックはそのときまでには次第に確立しかかっていた人間性、よりひろくより総合された社会的理解、理性に立って一大衝撃としての第一次大戦を経験した。悲惨事ながら、それは悲惨事として客観されるだけ成長したジャックの精神によって、経験された。した・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・それと同様に、一応野望的な作家の心に湧いたより活溌な、より広汎な、より社会的な文学行動への欲望が、その当然な辛苦、隠忍、客観的観察、現実批判の健康性を内外から喪失して、しかも周囲の世俗の行動性からの衝撃に動かされ、作家のより溌剌な親しみのあ・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・ われわれは工場新聞と各職場の壁新聞を動員して、少くとも九百人の文学衝撃隊が集められるだろうと思う。 どんなことがあっても、それより少いことが、あっちゃならない。 われわれは、生産経済計画を百パーセントに充すとともに、文化戦線を閑却・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ このごろは、体じゅう引き潮加減ながら調和した感じなのだが、まだ時々、肉体の内にのこっている衝撃のようなものが甦って来る。ああ苦しかったなあ、と思う。それにつれて、目の前の宙で何か透き徹って小さいものが実に容赦なくキュッキュッと廻って止・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・世間に暗い衝撃を与えることは、故人の望むところでなかったろう。自殺と直感した、といわれたときこそその人の妻らしい悲しみのありかたとして、すべての人にも肯かれたのに、いつか、他殺説を固執するようになった夫人の態度。勉学ざかりの少年、青年である・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ やがて職業意識をとり戻し、彼は、わきに案内役をしている工場新聞発行所の文学衝撃隊員或は工場委員会文化部員に訊くだろう。「君、これは何て機械です? フフーム。それで、アメリカ製ですか? そうではない? 成程! 素敵だね。われわれのソ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そのことから与えられた衝撃は或る意味では世界的な性質をもっていたと思う。何故フランスは敗れたのだろう。疑問は人々の眼の色に現われ、言葉にあらわれて、而も特に日本の条件ではその答えをどこからもつかめなかった。いち早く、フランスは頽廃した文化主・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
出典:青空文庫