・・・何でも偵察か何かに出た所が我軍の騎兵と衝突して頸へ一つ日本刀をお見舞申されたと云っていた。」「へえ、妙な縁だね。だがそいつはこの新聞で見ると、無頼漢だと書いてあるではないか。そんなやつは一層その時に死んでしまった方が、どのくらい世間でも・・・ 芥川竜之介 「首が落ちた話」
・・・皿の破れる音、椅子の倒れる音、それから、波の船腹へぶつかる音――、衝突だ。衝突だ。それとも海底噴火山の爆発かな。 気がついて見ると、僕は、書斎のロッキング・チェアに腰をかけて St. John Ervine の The Critics ・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・竹馬の友の万年博士は一躍専門学務局長という勅任官に跳上って肩で風を切る勢いであったから、公務も忙がしかったろうが、二人の間に何か衝突もあったらしく、緑雨の汚ない下宿屋には万年博士の姿が余り見えなかった。何かにつけて緑雨は万年博士を罵って、愚・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ 新旧思想の衝突という事を文人の多くは常に口にしておるが、新思想の本家本元たる文人自身は余り衝突しておらぬ。いつでも旧思想の圧迫に温和しく抑えられて服従しておる。文人は文人同志で新思想の蒟蒻屋問答や点頭き合いをしているだけで、社会に対し・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ この殆んど第二の天性となった東洋的思想の傾向と近代思想の理解との衝突は啻に文学に対してのみならず総ての日常の問題に触れて必ず生ずる。啻に文人――東洋風の――たるを屑しとしないのみならず、東洋的の政治家、東洋的の実業家、東洋的の家庭の主・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・といえどもわが家ののどけさには及ぶまじく候 ここに父上の祖父様らしくなられ候に引き換えて母上はますます元気よろしくことに近ごろは『ワッペウさん』というあだ名まで取られ候て、折り折り『おしゃべり』と衝突なされ候ことこれまた貞夫よりの事と思・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・第二に、案外片意地で高慢なところがあって、些細な事に腹を立てすぐ衝突して職業から離れてしまう。第三に、妙に遠慮深いところがあること。 なるほどそう聞かされると翁の知人どものいわゆる『理由』は多少の『理由』を成している。 けれど大なる・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・ 四 なお、新しい帝国主義戦争の危機――即ち、三ツの帝国主義ブルジョアジーが××の××的分割をやろうとしていることゝ共に、ソヴェート・ロシアに対する他のもろ/\の帝国主義国家が衝突しようとする危機も迫りつゝあることに・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・メリケン兵とも衝突するかもしれない。 そこへ軍医が出て来た。あとから、看護長がついてきた。その顔に一種の物々しさがあった。「みんな一っぺん病室へ引っかえすんだ。」 軍医の声は、看護長の物々しさに似ず、悄然としていた。 負傷者・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・十月には赤衛軍との衝突があった。彼等は、装甲列車で、第一線から引き上げた。 草原は一面に霧がかゝって、つい半町ほどさきさえも、見えない日が一週間ほどつゞいた。 彼等は、ある丘の、もと露西亜軍の兵営だった、煉瓦造りを占領して、掃除をし・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
出典:青空文庫