・・・肉親からの仕送りがまるで無い様子で、或る時は靴磨きをした事もあり、また或る時は宝くじ売りをした事もあって、この頃は、表看板は或る出版社の編輯の手伝いという事にして、またそれも全くの出鱈目では無いが、裏でちょいちょい闇商売などに参画しているら・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・興味は表看板の極端な絵を見て好奇心に駆られている間だけだと言えばいいのであろう。われわれ傍観者には戦争前にはなくて戦敗後に現れて一代の人気に投じたという処に観察の興味があるのだ。 ジャズを踊る踊子は戦争前には腰と乳房とを隠していたのであ・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・それは公正で紳士的だと云うのを表看板にしているイギリスの第一流新聞タイムスが、書いてることを見たって分る。そのことも階級的立場からはっきり知るのだ。 ――ほかに鬱はらしのしようがなかったんだな、きっと。 ――それも一つだ。その時分、・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
出典:青空文庫