・・・――僕は蛇笏の影響のもとにそう云う句なども製造した。 当時又可笑しかったことには赤木と俳談を闘わせた次手に、うっかり蛇笏を賞讃したら、赤木は透かさず「君と雖も畢に蛇笏を認めたかね」と大いに僕を冷笑した。僕は「常談云っちゃいけない。僕をし・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・が、彼にはハッシッシュや鴉片の製造者にほかならなかった。 僕等の議論は今になって見ると、ほとんど議論にはならないものだった。しかし僕等は本気になって互に反駁を加え合っていた。ただ僕等の友だちの一人、――Kと云う医科の生徒だけはいつも僕等・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・兄よ、前に述べたところから兄も察するであろうごとく、もし僕に狐のような怜悧な本能があったならば、おそらく第四階級的作品を製造し、第四階級的論文を発表して、みずから第四階級の同情者、理解者をもって任じていたろうと思うよ。相当にぜいたくのできる・・・ 有島武郎 「片信」
・・・蘇峰も漱石も芥川龍之介も頗る巧妙な警句の製造家である。が、緑雨のスッキリした骨と皮の身体つき、ギロリとした眼つき、絶間ない唇辺の薄笑い、惣てが警句に調和していた。何の事はない、緑雨の風、人品、音声、表情など一切がメスのように鋭どいキビキビし・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・絶間なく跡から跡からと煩悶を製造しては手玉に取ってオモチャにする人であった。二葉亭がかつて疑いがあるから哲学で、疑いがなくなったら哲学でなくなるといった通りに、悶えるのが二葉亭の存在であって、悶えがなくなったら二葉亭でなくなる。命のあらん限・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・文学者の世の中にふえるということは、ただ活版屋と紙製造所を喜ばすだけで、あまり社会に益をなさないかも知れない。ゆえにもしわれわれが文学者となることができず、またなる考えもなし、バンヤンのような思想を持っておっても、バンヤンのように綴ることが・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・英国においてはエリザベス女王のもとにその今や世界に冠たる製造業を起しました。その他、オランダにおいて、ドイツにおいて、多くの有利的事業は彼らによって起されました。旧き宗教を維持せんとするの結果、フランス国が失いし多くのもののなかに、かの国に・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
青い、美しい空の下に、黒い煙の上がる、煙突の幾本か立った工場がありました。その工場の中では、飴チョコを製造していました。 製造された飴チョコは、小さな箱の中に入れられて、方々の町や、村や、また都会に向かって送られるのでありました。・・・ 小川未明 「飴チョコの天使」
平和を目的にして、武器が製造せられ、軍備がなされるならば、其の事が既に、目的に対する矛盾であることは、華府会議の第一日にヒューズが言った通りであります。 私達は、黒人に対する米人の態度を見、また印度の殖民地に於ける英人の政策を熟視・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・んで死を決していた長藤十吉君を救って更生への道を教えたまま飄然として姿を消していた秋山八郎君は、その後転々として流転の生活を送った末、病苦と失業苦にうらぶれた身を横たえたのが東成区北生野町一丁目ボタン製造業古谷新六氏方、昨二十二日本紙記事を・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
出典:青空文庫