・・・この内気そうなぽっちゃりした娘さんと敵の襲撃とはどのような関係にあるのだろう。…… 黙っていろいろ考えていると、今度は娘さんの方から口を利いた。「……警視庁からはいつも何時頃来ますの?」 自分は、それは全然むこうの風次第だと答え・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・その可愛いレオンが一九三六年には六十七歳でブルム襲撃の背後の人となるということを、小市民の善良さで終った小説家の父親ドーデに予想することが出来ただろうか。ドーデが、貧乏しながらこつこつと小説をかいていくらか出来た財力がレオンをそういう男に仕・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・十五年の昔、素朴であり、ある意味では観念的であったにしろ、健在であろうとしていた文学の客観的批評の精神を襲撃して、当時の軍人、役人、実業家がよろこんでよむ「大人の小説」、軍協力文学を主唱したのは林房雄であった。こんにち、彼の「大人の文学」の・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・心配は直接本郷あたりが襲撃されることではなくて、思いがけず大規模の被害が生じたときその真中に安全な本郷、またはこの辺が、逃げ場のない袋の中に入ったことになるかもしれないことだ、という風に話された。 誰の話でも、本郷あたりは何かあっても最・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 一朝、野蛮人の襲撃に会えば、彼等は、只、彼等の団結によってのみその敵を防がなければならない。一都市の政治的、商業的問題を本国と取定める場合には、誰か、彼等の信任する一人を、あらゆる舌、あらゆる心の代表として選出しなければならない。共和・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・やっと婚礼の轎が門に入ったばかりの時、大部隊の兵が部落に乱入して来て、逃げ出した新夫婦は、二日目の夜馬賊に襲撃されて又逃げるとき、遂にちりぢりとなった。その時より四五年経った。彼女の几帳面さと清潔とを見出されて、或る西洋人の阿媽となったが、・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 恐ろしい螟虫の襲撃に会った上、水にまで反かれた稲は、絶望された田の乾からびた泥の上に、一本一本と倒れて、やがては腐って行く。 豊かな、喜びの秋が他の耕地耕地を訪れるとき、禰宜様宮田のところへは、何が来てくれたのか。 息もつけな・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・第二次大戦で、最も僅かの人命を犠牲としたのはアメリカであったし、本土に襲撃を蒙らなかった唯一の国もアメリカであった。そのように比較的少い損傷でヨーロッパと東洋のファシズムとたたかい、それをうち倒したアメリカが、こんにちもっている諸問題の複雑・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・文学の分野でも、情報局の形をとった軍部の兇悪な襲撃を、たった一人で、我ここに在りという風に、受けとめる豪気がひろ子にはなかった。みんなのいるところに出来るだけ自分も近くいたいという人恋しさがあった。けれども、重吉が、笑止千万という表情でひろ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・を書いて、職工に工場主の家を襲撃させた。Wedekind は「春の目ざめ」を書いて、中学生徒に私通をさせた。どれもどれも危険この上もない。 パアシイ族の虐殺者が洋書を危険だとしたのは、ざっとこんな工合である。 * ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫