・・・ 大雨があがる、 晴天 碧い空に白い雲、西風爽か 山の松の幹もパラリとしてすがしく篁の柔かい若青葉がしなやかに瑞々しく重く見える 多賀さんの下の高みで、家組が出来て、人が働いている 白シャツ姿。 廻り椽。浅い池 椽の・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・ そして、静かな西風に連れて、来ては去る雲がその時々に山全体の色調にこの上なく複雑な変化を与える。 或るときは明るく、或るときは暗く、山はまるで生きているように見えた。 大きな楓の樹蔭にあぐらをかき、釣糸を垂れながら禰宜様宮田は・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・四 西風が吹いて来た。勘次は桑の根株を割って風呂場の下を焚きつけた。煙は風呂場の下から逆に勘次の眼を攻めて、内庭へ舞い込むと、上り框から表の方を眺めている勘次の母におそいかかった。と、彼女は、天井に沿っている店の缶詰棚へ乱れ・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫