・・・ニイチェのショーペンハウエルに於ける場合も、要するにまたこれと同じである。ニイチェは如何にその師匠に叛逆し、昔の先生を「老いたる詐欺師」と罵つたところで、結局やはりショーペンハウエルの変貌した弟子にすぎない。彼はショーペンハウエルが揚棄した・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・此条漠然として取留なし。要するに婦人がおしゃべりなれば自然親類の附合も丸く行かずして家に風波を起すゆえに離縁せよとの趣意ならんなれども、多言寡言に一定の標準を定め難し。此の人に多言と聞えても彼の人には寡言と思われ、甲の耳に寡言なるも乙の聞く・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・人生は無意味だとは感じながらも、俺のやってる事は偽だ、何か光明の来る時期がありそうだとも思う。要するに無茶さ。だから悪い事をしては苦悶する。……為は為ても極端にまでやる事も出来ずに迷ってる。 そこでかれこれする間に、ごく下等な女に出会っ・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・それに受身になって運命に左右せられていないで、何か閲歴がしてみたいと云う女の気質の反抗が見えている。要するにどの女でも若い盛りが過ぎて一度平静になった後に、もうほどなく老が襲って来そうだと思って、今のうちにもう一度若い感じを味ってみたいと企・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ これを要するに曙覧の歌は『万葉』に実朝に及ばざること遠しといえども、貫之以下今日に至る幾百の歌人を圧倒し尽せり。新言語を用い新趣向を求めたる彼の卓見は歌学史上特筆して後に伝えざるべからず。彼は歌人として実朝以後ただ一人なり。真淵、景樹・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・先ず予め茲で述べなければならないことは前論士は要するに仏教特に腐敗せる日本教権に対して一種骨董的好奇心を有するだけで決して仏弟子でもなく仏教徒でもないということであります。これその演説中数多如来正にょらいしょうへんちに対してあるべからざる言・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 選挙をまえにして民自党はどんなにいい評判をとりたいでしょう、ところがおきの毒さまにも十三日の新聞にあらわれた泉山蔵相の事件のようなことがあらわれて最後の幕切れとなった。要するに吉田首相とその乾分は世界のブルジョア政治家も裏面でしかあら・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・それはドイツで平常興行せられる場合と違って、東京で始て興行せられた時には、教育のある人がわりに多く見に往ったかとも察せられるのである。要するにファウストに限って日本での興行を無意義だとするのは誤っていはすまいか。それを無意義だとすると、なん・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・ 佐藤春夫氏は極力作者に代って弁解されたが、あの氏の弁明は要するに弁明であって、自然はそんなことを赦すはずがないと思う。次ぎの『顔世』はあのような失敗の作である。もし佐藤氏の弁明が弁明でないなら、自作の顔世があのようなおどけた失敗はする・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・他人の内に穢ないもののある事を見いだすのは、要するに自分の内にも同じもののある証拠に過ぎませんでした。五 あまりジメジメした事ばかりを書いてすみません。しかしあなたに訴えれば私の胸はいくらか軽くなるのです。 私たちが今矮・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫