・・・この二人の作家の間にある違いは多くの要因を持っていますが、一つは明らかに純正な人間の叡智の敗北の悲劇を自覚したものと、バルザックのようにそれは自覚しなかった作家との違いだと思います。文学の精神の相異がここに何とはっきり出ているでしょう。カロ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・したがって、こんにちフロイドの精神分析をうけつぐ人があるならば、そのひとは、第二次大戦後、性コンプレックスは、その複合体のうちにどれほど多量の経済、政治上の要因をふくんで膨脹して来たか、を見ずにいないであろう。そして、その人も、おそらくは、・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・を読むと、アメリカの社会が、女にここまでつよく生きさせる可能を与えている一方に、なおこのような小説をパール・バックにさえかかせるような女としての苦悩の要因をふくんだ習俗におさえられている社会であること、女に生れたことをくやむ言葉が女への讚歎・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・ 系譜的作品に向う必然にそういう要因のあることもわかるけれども、それならばと云って、多くの所謂系譜的作品が、そういう意味でも意欲的に過去の現実へ立体的にくい下っているとは決して云えまいと思う。 登場人物の性格の或る種の面白い組合わせ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・るものは理性への執拗な抗議、すべて自明とされるものに対する絶望的な否定に立って、現実に怒り、自由に真摯な探求を欲することを彼の虚無の思想の色どりとしているのであるから、不安を脱出しようという精神発展の要因は含まれていない。 紹介者諸氏の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・『現代文学論』の第一篇、第三篇、第四篇、第五篇、第六篇は、次々に推移したそのような生活と文学との相貌を、具体的な個々の文学現象にふれて、文学的要因から闡明している。 時間の上からは第一篇についで書かれた第二篇は、それらの諸問題と必然・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ 日本の特殊性について、大切なこの論争がさかんに行われていて、まだ一定の決定を見ないうちに、ソヴェト同盟の社会主義の前進につれ、ドイツをはじめアメリカ諸国の革命的要因の高まるにつれてどんどん進むプロレタリア芸術の理論が、日本へも幅ひろい・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・第一次大戦の後、世界の市民文学の変化は、最もはげしく中間層の生活が破壊されたドイツの社会的要因の上に展開された。同時に、世界文学は、はじめて労働者階級の文学の誕生を迎えた。ソヴェト同盟の革命的な文学は、世界文学が包括するヒューマニティーの内・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・その際、事件の発展の順序、比重、描写における精疎のリズムなどを何によってわれわれが判断するかといえば、描こうとされている現実の複雑な諸要因、錯綜した関係に対して、作者がどことどこに重点をおこうとしているかということが、土台となって来る。現実・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・しかし、文学的要因にふれ得ずに、純文学の復興を叫んだ作家たちは同じ誤りを犯しつつ、不安の文学を提唱したのであった。 深田久彌のように、作品の上ではある簡勁さを狙っている作家も、この問題に対しては、自分が日常生活ではスキーなどへ出かけつつ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫