・・・ ともかくも西鶴の知識慾の旺盛であった事は上述の諸項からも知られるが、しかし西鶴の知識慾の向けられた対象を、例えば馬琴のそれと比較してみるとそこに興味ある差違を見出すことが出来るであろう。 江戸時代随一の物知り男曲亭馬琴の博覧強記と・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・またある時間内に降れる雨滴の大きさを験する時は、その大きさの公算曲線には数箇の山を見出すべし。これらの場合を総括するに、いずれもかつてポアンカレーの述べしごとく「原因の微分的変化が結果の有限変化を生ずる場合」に当るを見る。自然現象予報の可能・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・しかしともかくも芸術家のうちで自然そのものを直接に見て何物かを見出そうという人があれば、その根本の態度や採るべき方法には自ずから科学者と共通点を見出す事が出来てもよい訳である。 新しい目で自然を見るという事は存外六かしい事である。吾人は・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・たとえば今日こそ農業々々といえども、三、五年の中には農よりも商の欠点の見出すことのあるべきが如し。実に政治は臨機応変の活動にして、到底、教育の如き緩慢なるものと歩をともにすべき限りに非ず。もしも強いてこれを一途に出でしめ、今年今月の政治の方・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・どちらへ向いて見ても活路を見出すことが出来ません。わたくしはとうとう夢に向って走りました。ちょうど生埋めにせられた人が光明を求め空気を求めると同じ事でございます。 わたくしは突然今の夫を棄てて、パリイへ出て、昔あなたのおいでになる日の午・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・そして、まごころをもって芸術を愛し、人間の創造力に価値を見出すものであるなら、謂わば芸術至上の現実的過程としてさえも、ブルジョア社会の文学は自身の発展のために社会主義への方向をとるしかないことを確信するようになった。 ロシアの革命の歴史・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ 幾百年の過去から、恐ろしい伝統、宿命を脱し切れずにいる、所謂為政者等は、彼等の人間的真情の枯渇に、何かの弁明を見出すかもしれない。けれども、私共、平の人間、真心を以て人間の生活、真の人生と云うものを掴握しようとする者が、互に生きている・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・ 次の時代に役立つどんな生活の新しき拠りどころを見出すであろうか? 有産階級から出たアンネットは、その思想の母体がブルジョアであるアナーキスティックな思想に止るであろうか――これは、作家がそこに止ることを同時に意味するが――更にどの方向・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・此処からは、何処にも私の懐しい自然全景を見出すことは出来ない。視覚の束縛のみではない。心がつき当る。東を向いても、西を向いても。豊かに律を感じて拡がろうとする魂が、彼方此方で遮られて、哀れな戸惑いをする。ああ、野原、野原。私の慾しいものは、・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・あたり前の現象として人々が不思議がらない事柄のうちに不思議を見出すのが、法則発見の第一歩なのである。寺田さんは最も日常的な事柄のうちに無限に多くの不思議を見出した。我々は寺田さんの随筆を読むことにより寺田さんの目をもって身辺を見廻すことがで・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫