・・・……ところを、桔梗ヶ池の、凄い、美しいお方のことをおききなすって、これが時々人目にも触れるというので、自然、代官婆の目にもとまっていて、自分の容色の見劣りがする段には、美しさで勝つことはできない、という覚悟だったと思われます。――もっとも西・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・坂本繁二郎氏のセガンチニを草体で行ったような牛の絵でも今見てもちっとも見劣りがしない。安井氏のを見ると同氏帰朝後三越かどこかであった個人展の記憶が甦って来て実に愉快である。山下氏のでも梅原氏のでも、近頃のものよりどうしても両氏の昔のものの方・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・しかし不思議な事には蘭のさびしい花はこれに比べてもちっとも見劣りがしないのみか、かえって今までよりも強くこの花の特徴を主張するかと思われた。古い小さいベコニアはそれでも捨てるのは惜しかった。自分は時々頭をねじ向けて洗面台の上に目をやって、花・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・だれでもが指揮者になれない理由はそこにあり、芭蕉七部集の連句には一芭蕉の存在を必須とした理由もここにあり、さらにまたたとえば蕪村七部集の見劣りする理由もここにあるのであろう。 芭蕉は指揮者であるのみならず、おそらくまた一種の作曲者ででも・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・「どうです、異派席の連中は、私たちの仲間にくらべては少し風采でも何でも見劣りするようですね。」 私も笑いました。「どうもそうのようですよ。」 陳氏が又云いました。「けれども又異教席のやつらと、異派席の連中とくらべて見たん・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫