・・・ お蓮はここへ来た時よりも、一層心細い気になりながら、高い見料を払った後、そうそう家へ帰って来た。 その晩彼女は長火鉢の前に、ぼんやり頬杖をついたなり、鉄瓶の鳴る音に聞き入っていた。玄象道人の占いは、結局何の解釈をも与えてくれないの・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・夕方から立って、十時を過ぎたいままで、客はたった三人である。見料一人三十銭、三人分で……と細かく計算するのも浅ましいが、合計九十銭の現金では大晦日は越せない、と思えば、何が降ってもそこを動かない覚悟だった。家には一銭の現金もない筈だ。いろん・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・「うん、余る位だ。ホラ電車賃だ」 そこで私は、十銭銀貨一つだけ残して、すっかり捲き上げられた。「どうだい、行くかい」蛞蝓は訊いた。「見料を払ったじゃねえか」と私は答えた。私の右腕を掴んでた男が、「こっちだ」と云いながら先へ立・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
出典:青空文庫