・・・それが人の言うように規則的に溢れて来ようとは、信じられもしなかった。故もない不安はまだ続いていて、絶えず彼女を脅かした。袖子は、その心配から、子供と大人の二つの世界の途中の道端に息づき震えていた。 子供の好きなお初は相変わらず近所の家か・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・なんとか助けて下さい、と懇願しても、その三十歳くらいの黄色い歯の出た痩せこけた老婆、ろくろく返事もなく、規則は規則ですからねえ、と呟いて、そろばんぱちぱち、あまりのことに私は言葉を失い、しょんぼり辞去いたしましたが、篠つく雨の中、こんなばか・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・自分は拳闘については全くの素人で試合の規則もテクニックもいっさい知らないのであるが、自分が最初からこの映画でおもしろいと思ったのはこの二人の選手の著しくちがった個性と個性の対照であった。 カルネラは昔の力士の大砲を思い出させるような偉大・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつなんどき来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始まるであろう。「太平洋爆撃隊」という映画がたいへんな人・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつ何時来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始まるであろう。「太平洋爆撃隊」という映画が大変な人気を呼ん・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・という小品の中に、港内に碇泊している船の帆柱に青い火が灯っているという意味のことを書いてあるのに対して、船舶の燈火に関する取締規則を詳しく調べた結果、本文のごとき場合は有り得ないという結論に達したから訂正したらいいだろうと云ってよこした人が・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・それで×××の△△連隊から河までが十八町、そこから河向一里のあいだのお見送りが、隊の規則になっておるんでござえんして、士官さんが十八人おつき下さる。これが本葬で、香奠は孰にしても公に下るのが十五円と、恁云う規則なんでござえんして…… そ・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・人によっては寝食の時間など大変規則正しい人もあるかも知れないが、原則から云えば楽に自由な骨休めをしたいと願いまたできるだけその呑気主義を実行するのが一般の習慣であります。すると彼らには明かに背馳した両面の生活がある事になる。業務についた自分・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ それから、イミテーションは外圧的の法則であり、規則であるという点から、唯打ち毀して宜いというものではない。必要がなくなれば自然に毀れる。唯、利益、存在の意義の軽重によって、それが予期したより十年前に自ら倒れるか、十年後に倒れるかである・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・学校の規則もとより門閥貴賤を問わずと、表向の名に唱るのみならず事実にこの趣意を貫き、設立のその日より釐毫も仮すところなくして、あたかも封建門閥の残夢中に純然たる四民同権の一新世界を開きたるがごとし。 けだし慶応義塾の社員は中津の旧藩士族・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫