・・・それは彼が小作人の一人一人を招いて、その口から監督に対する訴訟と、農場の規約に関する希望とを聞き取っておく役廻りで、昨夜寝る時に父が彼に命令した仕事だった。小作人が次々に事務所をさして集まって来るのもそのためだったのだ。 事務所に薄ぼん・・・ 有島武郎 「親子」
・・・「貯金の規約がこういうことになっとるんじゃ。」と、杜氏は主人が保管している謄写版刷りの通帳を与助の前につき出した。その規約によると、誠心誠意主人のために働いた者には、解雇又は退隠の際、或は不時の不幸、特に必要な場合に限り元利金を返還する・・・ 黒島伝治 「砂糖泥棒」
・・・ただ、ただ、レッド・テエプにすぎざる責任、規約の槍玉にあげられた鼻のまるいキリスト。「温度表を見て下さい。二十日以降、注射一本、求めていません。私にも、責任の一半を持たせて下さい。注射しなけれあいいんでしょう?」「いいえ、保証人から全快まで・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ 以上述べきたったような日本の自然の特異性またそれによって規約された日本人の日常生活の特異性はその必然の効果を彼らの精神生活に及ぼさなければならないはずである。この方面に関しては私ははなはだ不案内であるが上述の所説の行きがかり上少しばか・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 短い詩ほど詩形の規約の厳重さを要求する。そうでなければ、詩だか画題だか格言だかわからなくなる。のみならず、近来わが国諸学者の研究もあるように、七五の音数律はわが国語の性質と必然的に結びついたもので人為的な理屈の勝手にはならないものであ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・もちろんこれには規約的な条件も支配していると思われるが、心理的にこれらの口調が互いに相吸引していることは争われない。これはおそらく統計学的にも証明し得られるであろうと思う。 数字と数字との連想も半ば内容的であるが半ばは音調的の口移りから・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・そしてその対象は直接間接に人間的なものと考え、顔や挙動や境遇や性格やの滑稽になるための条件公式あるいは規約のようなものをいくつも、科学的に言えばかなり大胆に持ち出してはそれを実例と対照させ説明している。それを基礎として喜劇というものが悲劇な・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・ 奴隷制度が、制度として社会規約から除かれた事丈で、万事が無かった時の状態に属せるものだとしたら、人間の心は単純である。私は、今日女性の心の中には、新たに目覚めた人としての燃えるような意図と共に、過去数百年の長い長い間、総ての生活を受動・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・団員はみんな若いコムソモールで、共同経済と厳重な規約の下に階級的な集団生活をやっている。そこへ加入するには必ずある一定の期間実際生産労働に従事した者でなければならないのである。レーニングラード・トラムは自身の劇場をもっている。モスクワでトラ・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ わたしは、共産主義者である前に進歩的な要素をもつ人間であり、女であるのだから、そして、文学者であるのだから、そのおおねをゆすぶって迫る政治の面での問題を、技術としてきりはなし政治の面での規約にしたがった理論的な方法で処理する躾が身につ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
出典:青空文庫