・・・しかしながら文学美術工芸よりして日常一般の風俗流行に至るまで、新しき時代が促しつくらしめる凡てのものが過去に比較して劣るとも優っておらぬかぎり、われわれは丁度かの沈滞せる英国の画界を覚醒したロセッチ一派の如く、理想の目標を遠い過去に求める必・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・に反映しているこの現象は、どんな権力も否定することのできない事実をもって、今日の人民的可能性の高まりと、生活意欲の覚醒とを語っている。二十数年前には少数の女性にだけ意識された問題が、こんにちでは大多数の若い女性にとって実感のそそられる社会的・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・デュガールは、ジャックをとりかこむそれぞれの時期における社会的環境の特質とジャックの人間性の覚醒――自意識のめざめの段階とを対決させつつ、ジャックとその社会の動きを描いている。ジャックという一人の人間が、一定の社会史の期間をとおして、その矛・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・しかしローレンスは、人間としての女性をはずかしめる者としてではなく、枯涸と酔生夢死から人間の女として覚醒させる者として、より強壮で、率直な男の性を提出している。 D・H・ローレンスは、一生、自分自身がおちこんでいるいくつかの矛盾からぬけ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・芸術的良心を痲痺させてしまって出版業者に動員されて、てんから恥ない所がありはすまいか、出版当事者美術家ともに大いに良心を覚醒させる要があろう。 次にさしずめ世界文化年表とでも称する年表が欲しい。広い文化の分野でせまい分科的にではあるかも・・・ 宮本百合子 「業者と美術家の覚醒を促す」
・・・ 女性のうちの母性は、天然のめざめよりあるいはなお早くこの声々に覚醒させられているようなけはいがある。若い女性たちの関心も結婚という課題にじかに向かっていて、婦人公論の柳田国男氏の女性生活史への質問も、五月号では「家と結婚」をテーマとし・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・しかも、おくれた日本の覚醒をめぐる情勢の流れは迅くて、内部にちぐはぐなものを感じ、善意の焦点を見いだしかねているままに、現実は、むき出しな推移で私たちの日常をこづいて、ゆっくり考えてみるために止まる時間さえ与えない。体が、混んだプラットフォ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・―― 現代文学がよりひろくつよい社会性に解放されようとする意欲において真実ならば、現代文学のすべての創作方法が、きょうは、その研究のひろばにあつまって、文学の精神のより世界史的覚醒のために協力しあっていい時だと思われる。 民主主義文・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・に影響されて当時の青鞜社風の女性の自我の覚醒と、対立者としての男性および恋愛との格闘を主題とした「煤煙」は自然主義的なリアリズムと、主観的ロマンチズムのまざりあった作品であったと記憶します。その森田氏は長篇「輪廻」をかきました。これも自然主・・・ 宮本百合子 「心から送る拍手」
・・・ そのようなこんにち、一方では、社会的・歴史的な人類としてわれわれが生きている証左たる、理性の覚醒としての文学、を要望する思いが、切実である。広汎な読者がそれを要求しているばかりでなく、文学者自身のうちに、その要求が疼いている。 こ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
出典:青空文庫