・・・そして、その芽が大きく伸びて、一本の木となった時分には、その木の親木は、もう、枯れていることもあります。またじょうぶでいることもあります。そんなことが、たび重なるにつれて、その木の子や、孫が地面上に殖えていって繁栄するのです。」と、お母さん・・・ 小川未明 「赤い実」
・・・ 樹木でさえ、親木が年寄って倒れれば、きっとその傍から新らしい若い芽生えが出ますでしょう。まして人の心は樹や草などより、もっともっと微妙なものです。 それ故、政子さんが、お亡くなりに成った両親を思うものなら思うほど、自分の中に遺して・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ひとりをかみしめて食む 夕食と涙たよりにする親木をもたない小さい花はくらしの風に思うまゝ五体をふかせてつぼみの枝も ゆれながらひらく「女ひとり」のこの涙は、作者一人の味わったものではないであろう。「ひ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
出典:青空文庫