・・・このカッフェに欠くべからざるものだから、角砂糖。ETC. ETC. この店にはお君さんのほかにも、もう一人年上の女給仕がある。これはお松さんと云って、器量は到底お君さんの敵ではない。まず白麺麭と黒麺麭ほどの相違がある。だから一つカッフェ・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・コーヒー糖と称して角砂糖の内にひとつまみの粉末を封入したものが一般に愛用された時代であったが往々それはもう薬臭くかび臭い異様の物質に変質してしまっていた。 高等学校時代にも牛乳はふだん飲んでいたがコーヒーのようなぜいたく品は用いなかった・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・それから元気よく口笛を吹きながらパン屋へ寄ってパンの塊を一つと角砂糖を一袋買いますと一目散に走りだしました。三、家 ジョバンニが勢よく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱に紫いろの・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・かんしやくを起しゝあとの淋しさに 澄む大空をツク/″\と見るものたらぬ頬を舌にてふくらませ 瓦ころがる抜け歯の音きくうすらさむき秋の暮方なげやりに 氷をかめば悲の湧く角砂糖のくずるゝ音をそときけば 若・・・ 宮本百合子 「短歌習作」
・・・ 一つの角砂糖を噛んでステパン・ステパノヴィッチは三杯の茶を干した。「ああ結構でした」 彼は、ジェルテルスキーに向って頭を下げながら何か小さい声で云った。するとジェルテルスキーは、例の手つきで髪をかき上げ、間の悪い曖昧な笑いを浮・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫