・・・けれども此の死を讃美し此れを希うという事は既に或る解決であって、最早煩悶の時代を去った、そして宗教に合致したのであって真のもだえというべきは此に達する間の苦しみでなくてはならぬ。 今一つ言うべきは、現実という事である。此れも極めて物質的・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・私はその時に不図気付いて、この積んであった本が或は自分の眼に、女の姿と見えたのではないかと多少解決がついたので、格別にそれを気にも留めず、翌晩は寝る時に、本は一切片附けて枕許には何も置かずに床に入った、ところが、やがて昨晩と、殆んど同じくら・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・自分の細君に客を取らせているあの男は、嫉妬というものをどんな風に解決しているのかと、ふと好奇心が湧いた。「いやそれよりも……」と主人は天婦羅を私の前に載せながら、「――あんたにいいタネをあげましょうか」「どうぞ。いいタネって何……?・・・ 織田作之助 「世相」
・・・その前月おせいは一度鎌倉へつれ帰されたのだが、すぐまた逃げだしてき、その解決方に自分から鎌倉に出向いて行ったところ、酒を飲んでおせいの老父とちょっとした立廻りを演じ、それが東京や地方の新聞におおげさに書きたてられて一カ月と経っていない場合だ・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・――しかしそんなことはいくら考えても決定的な知識のない吉田にはその解決がつくはずはなかった。その原因を臆測するにもまたその正否を判断するにも結局当の自分の不安の感じに由るほかはないのだとすると、結局それは何をやっているのかわけのわからないこ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・しかもまた問いはその解決でさえもあるのだ。ハイデッガーが「問いは何ものかへの問いとして『問われているもの』を持っている」といってるように、問いの中にすでにその事柄の本質が横たわっているのである。問いなくして倫理学の研究に着手することは無意味・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ だが、間もなく、ワーシカの疑問は解決された。朝鮮銀行がやっていた、暗黒相場のルーブル売買が禁止されたのが明らかになった。密輸入者が国外へ持ちだしたルーブル紙幣を金貨に換える換え場がなくなったのだ。 日本のブル新聞は、鮮銀と、漁業会・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・しかもなおこれらのものが真に私の血と肉とに触れるような、何らの解決を齎らし来たったか。四十の坂に近づかんとして、隙間だらけな自分の心を顧みると、人生観どころの騒ぎではない。わが心は依然として空虚な廃屋のようで、一時凌ぎの手入れに、床の抜けた・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・もし探偵にでもなったら、どんな奇怪な難事件でも、ちょっと現場を一まわりして、たちまちぽんと、解決してしまうにちがいない。そんな頭のいい、おじいさんなのだ。とにかく、Cantor の言うたように、」また、はじまった。「数学の本質は、その自由性・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ このはじめて見た文楽の人形芝居の第一印象を、近ごろ自分が興味を感じている映画芸術の分野に反映させることによってそこに多くの問題が喚起され、またその解決のかぎを投げられるように思われる。特に発声映画劇と文楽との比較研究はいろいろのおもし・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
出典:青空文庫