・・・啓示を指さす指である。解脱への通路である。書を読んで終に書を離れるのが知識階級の真理探究の順路である。 現代青年学生は盛んに、しかしながら賢明に書を読まねばならぬ。しかしながら最後には、人間教養の仕上げとしての人間完成のためには、一切の・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・彼らの境遇や性質が、もしひとたび改変せられて、これらの事情から解脱するか、あるいはこれらの事情を圧倒するにいたるべき他の有力なる事情が出来するときには、死はなんでもなくなるのである。ただに死を恐怖しないのみでなく、あるいは恋のために、あるい・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・要するに死其者の恐怖すべきではなくて、多くは其個個が有せる迷信・貪欲・愚癡・妄執・愛着の念を払い得難き性質・境遇等に原因するのである、故に見よ、彼等の境遇や性質が若し一たび改変せられて、此等の事情から解脱するか、或は此等の事情を圧倒するに足・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・諸君、解脱は苦痛である。しかして最大愉快である。人間が懺悔して赤裸々として立つ時、社会が旧習をかなぐり落して天地間に素裸で立つ時、その雄大光明な心地は実に何ともいえぬのである。明治初年の日本は実にこの初々しい解脱の時代で、着ぶくれていた着物・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・「爾の時に疾翔大力、爾迦夷に告げて曰く、諦に聴け、諦に聴け、善くこれを思念せよ、我今汝に、梟鵄諸の悪禽、離苦解脱の道を述べん、と。 爾迦夷、則ち、両翼を開張し、虔しく頸を垂れて、座を離れ、低く飛揚して、疾翔大力を讃嘆すること三匝にし・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ 持ちたい、見たい、語り度い、という執念からは解脱したく、またすべきであると思わずにはいられません。 現在の、或る時には非常に原始的な愛の爆発を持つ心の状態のままで、不意に、思いもかけず、自分の手から愛する者を奪われたらどうなるでし・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・その時、貴女というものは、他の追従を許さない絶対の貴女であって、同時に、日常の貴女の或るものからは、完全に解脱した人格のしんの光耀に接するのでございます。 あらゆるよき芸術の驚くべき独立性と、普遍性との調和が、そこから生ずるのではござい・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・羅山はそれ以前から熱心な仏教排撃者であって、そういう論文をいくつか書いているが、それによると、解脱は一私事であって、人倫の道の実現ではない、というのである。同時にまた彼は熱心なキリシタン排撃者であって、仕官の前年に『排耶蘇』を書いている。松・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ショーペンハウエルの意志否定はかなり根元的の否定であるが、しかし彼の解脱――意志なき認識や涅槃などにおいては、なお真実に自己を活かすことが出来ると思う。 真実の自己は、意識的に分析する事の出来ないものである。それは様々な本能から成り立っ・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・霊的解脱はここにあり。かくてすべての人が漠然として欲求し、茫然として不可達に苦しむ理想の境はたちまちにして汝の前に開かれん。汝のアメリカはここにあるのみ、他にあらざるなり。実に汝が今立てる地はすなわち理想の郷たるべき地なり。」という。このア・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫