・・・「エえまア聞いてくれこうだ、乃公は娘を連れて井下聞吉の所へも江藤三輔の所へも行った、エえ、故国からわざわざ乃公が久しぶりに娘まで連れて行ったのだから何とか物の言い方も有ろうじゃア、それを何だ! 侯爵顔や伯爵顔を遠慮なくさらけ出してそのご・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・その事務員は道具だての大きい派手な美しい顔の女だったが、常に甘えたようなものの言い方をしていた。老人や子供達にはケンケンして不親切であったが、清三に金を送りに行った時だけは、何故か為吉にも割合親切だった。 両人は、それぞれ田舎から持って・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・口はばったい言い方でありますが、私に、こんな素材を与えたら、いい小説が書けるのに、と思う事があります。素材は、小説でありません。素材は、空想を支えてくれるだけであります。私は、今まで六回、たいへん下手で赤面しながらも努めて来たのは、私のその・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・激した言い方などはしないものだ。つねに、このように明るく、単純な言い方をするものだ。そうして底に、ただならぬ厳正の決意を感じさせる文章を書くものだ。繰り返し繰り返し読んでいるうちに、私にはこの三田君の短いお便りが実に最高の詩のような気さえし・・・ 太宰治 「散華」
・・・げびた言い方をすれば、私は二十代のふしだらのために勘当されていたのである。 それが、二度も罹災して、行くところが無くなり、ヨロシクタノムと電報を発し、のこのこ生家に乗り込んだ。 そうして間もなく戦いが終り、私は和服の着流しで故郷の野・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・終戦になって、何が何やら、ただへとへとに疲れて、誇張した言い方をするなら、ほとんど這うようにして栃木県の生家にたどりつき、それから三箇月間も、父母の膝下でただぼんやり癈人みたいな生活をして、そのうちに東京の、学生時代からの文学の友だちで、柳・・・ 太宰治 「女類」
・・・甚だ妙な言い方でございますが、つまりその頃の私の存在価値は、そのダメなところにだけ在ったのでして、もし私がダメでなかったら、私の存在価値が何も、全然、無くなるという、まことに我ながら奇怪閉口の位置に立たされていたのでございます。しかし、私も・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・「あら、そんなに改まった言い方をしては、おかしいわ。きょうから、あたしはあなたの召使いじゃないの。それでは旦那様、ちょっと食後の御散歩は、いかがでしょう。」「うむ、」と魚容もいまは鷹揚にうなずき、「案内たのむ。」「それでは、つい・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ 最も抒情的なものと考えられる詩歌の類で、普通の言い方で言えば作者の全主観をそのままに打ち出したといったようなものでも、冷静な傍観者から見れば、やはり立派な実験である。ただ他の場合と少しちがうことは、この場合においては作者自身が被試験物・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・これも、少し無理な言い方をすれば庭園の自然を宇宙空際にまで拡張せんとするのであると言われないこともないであろう。 日本人口の最大多数の生産的職業がまた植物の栽培に関しているという点で庭園的な要素をもっている。普通な農作のほかに製茶製糸養・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫