・・・たとえばクロポトキンのような立ち優れた人の言説を考えてみてもそうだ。たといクロポトキンの所説が労働者の覚醒と第四階級の世界的勃興とにどれほどの力があったにせよ、クロポトキンが労働者そのものでない以上、彼は労働者を活き、労働者を考え、労働者を・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・それゆえ始めの間の論駁には多くの私の言説の不備な点を指摘する批評家が多いようだったが、このごろあれを機縁にして自己の見地を発表する論者が多くなってきた。それは非常によいことだと思う。なぜならばあの問題はもっと徹底的に講究されなければならない・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ 私は十年来、ひどくまずい小説ばかり書いて来ている三十六歳の男子であって、小説界に於いても私の言説にまじめに耳を傾けてくれるような物好きな人がひとりもいない現状なのだから、いわんや、映画界に於いては、誰も私のつまらぬ名前など知らんのでは・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・ またさきごろは、戦争に最も反対した民主主義者を新しい軍国主義者であるといった言説が新聞に発表された。ファシスト自身をさえおどろかしたこういう実例ばかりでなく、この頃になっては、民主的ということばは、全く独占資本的または隷属的本質とすり・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・集団として経済、政治、文化の問題をとりあつかい、より社会化されつつあった言説の反面に、同じテムポで成熟するひまのなかった新しい労働者階級の人間性――階級的人格形成の問題がのこされていることは、こんにちただ、文学の問題に止る現実ではない。・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・とする諭吉の言説は、とくに注目されなければならない重要な点だと思う。婦人に経済法律とは異様にきこえるかもしれないが、その思想が皆無であるということこそ社会生活で女が無力である原因中の一大原因である。女には是非この知識がいる。「形容すれば文明・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・その言説は権威あるものとして尚ばれていたであろう。しかし『排耶蘇』に現われているような偏頗な考え方は、決して克服されてはいないのである。またその点が、狂信的な情熱を必要とした幕府の政治家に、重んぜられたゆえんであろう。彼が幕府に仕えて後半世・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫